成長の原動力

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ゴードン・ブラウン
(GORDON BROWN)
英国(グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国)首相

2世紀前、英国はその豊富な石炭を活用して産業革命に火をつけ、世界的な経済大国になりました。今日、21世紀の英国は、グリーンエネルギーの上に成り立った新たな産業革命の成果を得ようとしています。変化の先頭に立つことを再び決心した英国は、世界最大の洋上風力発電量を誇り、原子力発電の新たな波を先導し、さらには化石燃料のクリーン化技術を開拓しています。

なぜでしょうか?それは、気候変動への取り組みは将来の地球の健全性を守る上で不可欠であるだけでな く、経済成長と繁栄の原動力でもあるからです。

英国をはじめ、多くの国々では、低炭素への転換がすでに現在の景気低迷からの回復を促進していて、新たな成長、新たな雇用、新たな産業、そして新たな輸出市場を提供しています。したがって、コペンハーゲンにおいて新たな国際的合意を達成することは、単に環境にとって不可欠なだけでなく、経済的にも不可欠なことなのです。

気候変動のコストは今や理解されています。

3年前、私が作成を依頼したスターン報告書は、地球温暖化対策を講じない場合の経済的損失は世界全体の国内総生産(GDP)の5~20%に達する可能性があると結論付けました。すなわち、21世紀の経済的損失は、20世紀に2つの世界大戦と大恐慌で被った損失よりも大きくなるということです。

しかし今、さらに注目すべきは、低炭素経済への移行がもたらす恩恵です。まず、これまで燃料費に充てられていた資金が投資に向かい、より効率的なエネルギー消費によって総合的な生産性が向上します。

一方、国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、低炭素エネルギーの生産とインフラへの需要には、2030年までに26.3兆ドルもの投資が必要になります。これがひいては、さまざまな低炭素・省エネ技術や、それに伴うインフラ、建設、サービス産業における、商品やサービスの巨大市場を創出するでしょう。

すでに防衛産業と航空宇宙産業の合計よりも大規模になっている地球環境産業の価値は、2015年までに4.3兆ポンドとなり、数千万の雇用を維持する可能性があります。また、脱炭素化の流れに伴って技術革新の波も起こるでしょう。そして、一つの分野における技術革新が他の分野にも影響し、経済の可能性と恩恵は世界経済全体に波及していくでしょう。ですから、この1年間に世界中の政府がグリーン投資を景気刺激策の重点としたことは、意外ではありません。

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金融恐慌を受け、次の段階の成長の原動力となり得る主要部門への民間投資に最適な状態を確保するため、各国政府は非常に実行力のある戦略を導入する必要に迫られています。低炭素経済については特にそうです。この市場はその他の戦略的部門とは異なり、ほぼ完全に排出削減とエネルギー安全供給の向上のための政策によって動いています。

経済の脱炭素化を進めるには多少のコストがかかります。エネルギー価格は緩やかに上昇するでしょう。しかし成長が回復するにつれ、とりわけエネルギー効率化対策によって需要ひいては光熱費が引き下げられると、これらのコストはまかなえるようになります。そして、高炭素エネルギーの将来はむしろコストがより高くなるということは明確な事実です。

輸入石油・ガス―― その一部は政治的に不安定な地域から輸入している――への過度の依存は、私たちを経済的にも政治的にも受け入れ難いリスクにさらします。つまり、低炭素への道は、より優れたエネル ギー安定供給への道でもあります。

そのため、私たちの取り組みにはトリプルボトムライン(=環境・社会・経済の3つの側面)があります。すなわち、長期的な成長と雇用の同時創出、温室効果ガス排出量の削減、そしてエネルギー安定供給の強化です。

もちろん、決して英国だけではありません。EUは2020年までに1990年比で20%――強固な国際的合意があれば30%――という、法的拘束力のある排出削減目標を採択しました。排出量取引制度は合衆国とカナダ、オーストラリアで法制化されており、まもなく日本でも法制化されるでしょう。中国はエネルギー効率の向上と再生可能エネルギーの利用促進のための厳しい目標を掲げ、インドは意欲的な太陽光発電へ の投資計画を発表しました。

昨年は世界中で、再生可能エネルギー発電への投資が初めて化石燃料発電を上回りました。これらは世界的なトレンドです。しかし、依然として不安定なままです。だからこそ、コペンハーゲンにおける新たな気候変動枠組みに関する国際的合意が極めて重要なのです。

私たちは、低炭素投資家・企業に彼らが必要としている確信と自信を提供する、国際的な枠組みを整備しなければなりません。英国政府は、意欲的で、効果的で、公平な合意を求めています。意欲的とは、この合意によって、地球の平均気温の上昇を2℃以内に抑える方向に世界を導かなければなりません。効果的とは、強固な監視・検証体制と同時に、効率的な排出削減のための市場メカニズムを構築することです。そして公平とは、途上国も先進国も気候変動に立ち向かうことができるよう援助することです。

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最後の項目はとりわけ重要です。気候変動は著しい不公平をもたらします。気候変動のおもな原因は最も裕福な国々であるのに、最も深刻な影響を感じているのは最貧困国です。それゆえ、コペンハーゲンでの合意によって、最も貧しく最も脆弱な国々が、今やすでに避けられないものとなった変化に適応できるよう援助し、低炭素型で気候変動に強い成長への道を進めるよう支援しなければなりません。

だからこそ私は6月に、先進国と途上国の間の気候ファイナンスに関する合意について一連の提案を示しました―――これは、2020年まで年間1,000億ドルを公的および民間資金から拠出するというものです。

気候変動は人間にかつてない課題を突きつけています。しかし、解決策は手の届くところにあります。そしてその解決策は、私たちの子供や孫の未来を守りつつ、現在の私たちに大きな経済的恩恵をもたらします。

合意の達成には、世界の首脳たちが残された相違点を調整し、チャンスをつかむことが求められるでしょう。しかし私は、それは実現可能だと確信しています。

 

出典:Our Planet日本語版 2010 Vol.1(通巻18号)