産業の変革に支援を

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シャラン・バロウ
(Sharan Burrow)
国際労働組合総連合書記長、
サステインレイバー(持続可能な開発のための国際労働財団)代表

化学汚染は私たちの生態系と共同体に取り返しのつかない損害を与え、最も無防備な人々――特に子供や貧しい土着の人々――の健康に著しい影響を与えます。化学物質の安全性については多少改善されたものの、労働者の健康への影響は依然として甚大です。毎分一人が仕事中に有害物質にさらされて死亡しています。年間1億6,000万件の職業による疾病のうち、大部分は化学物質が原因です。

危険性の高い産業としては鉱業、化学、建設、繊維があげられます。しかし輸送や漁業などの分野の労働者も気づかれていない危険性にさらされています。マイクロエレクトロニクスやナノテクノロジーなど新しい産業の危険性も証明されています。また、サービス業――例えばクリーニングや美容業――でも、製造業や鉱業と同様に化学物質への曝露が命にかかわる場合があり得ます。ほとんどすべての産業分野が例外ではありません。

世界の市場には何十万もの化学物質が出回っていますが、多くの場合、私たちは化学物質の影響については、それらが相互にどんな作用をし合うかはもとより、何一つ知りません。また市民や労働者は無知のまま生活していて、市場に出回っている、あるいは職場で使われている化学物質は安全だと思い込んでいます。大部分の化学物質は、健康や環境に与える影響を適正な検査を経ないで使用されています。数千種の化学物質には発癌性、突然変異誘発性があり、生殖にとって有害です。労働者は会社や政府が彼らを危険にさらすはずがないと信用しています。しかしそうではありません。

問題の大きさにもかかわらず、この世界的な脅威に包括的に対処する国際的なガバナンスはありません。化学産業――そしてその利益に呼応する政府――の力が、国連が首尾一貫した拘束力のある機構を作るのを妨げてきました。世界中の労働者にとって、化学物質規制の進行ペースはあまりにも遅く、また危険化学製品を販売、使用する側がほとんど告発されないので、多くは何の咎めもなく継続して行われています。

しかし各国政府間では尊重すべき国際協定が結ばれています。2002年のヨハネスブルグ・サミットで、世界中の労働者にとって極めて重要な目標に合意しました。2020年までに、すべての化学物質は人間の健康と環境に甚大な悪影響を与える化学物質を最小限にとどめる方法で製造、使用するという目標です。

この目標は実行されなければならず、各国政府はそれを無視することは許されません。今後5年間、国際労働組合総連合は、各国政府にこの公約を思い起こさせ、その実現を支援するでしょう。私たちはすでに今年4月28日、その影響と防止対策について組合員の意識を高めるために、有毒物質に関する地球規模のキャンペーンを開始しました。

労働者のためには、化学物質の持続可能な管理は国連持続可能な開発アジェンダの主要部分であり、また世界の環境管理体制の中心でなくてはなりません。癌やその他の病気が労働者の包括賃金の一部であるような状態を続けることはできません。年間66万人以上の労動者が職業により癌にかかっています。証拠が増え、十分な調査が行われているのに、予防対策が進歩するどころか、私たちの目前には否認と虚偽という有害な混合物があります。それは、歴史上のどんな時代より多くの人々が仕事が原因の腫瘍を発症する可能性があることを意味しています。

巨大な電子産業の出現は世界だけでなく、私たちの働き方、コミュニケーションの仕方まで変えようとしています。しかしそれはまた、製造工程で労働者が発癌性物質にさらされ、消費者が使用時にそのような物質にさらされる可能性を発生させ、連鎖の末端にいるリサイクル業者を耐え難い悪影響に直面させるような職業を生み出しています。

労動者は依然、化学製品製造のために、まるでモルモットのように利用されています。新しい産業は過去の過ちから学ぶべきです。しかしいまだに予防の仕組みは新旧どちらの製造業者にも適用されていません。変化を起こすには、罰則がないか、あるいはあまりに軽すぎて大きな損失を被らないからです。

2020年が最終期限で、実現可能ないくつかの目標を達成するには十分な時間があります。2020年までに、世界はあらゆる形のアスベストを排除しなければなりません、また非常に危険な殺虫剤――パラコート、エンドスルファン、グリホサートなど――を除去し、世界中の人々に提供する食物を生産する労動者の死を確実に阻止しなければなりません。このような取り組みによってのみ、各国政府は何百万もの労動者の命を救い、達成を約束した目標にさらに近づくことができるでしょう。

ヨハネスブルグ・サミットの目標を順守するには、すべての国で国内の首尾一貫した職業上の健康規則がぜひ必要です。それには予防措置と労働者の全面的な参加を組み込んだ政策と実践が伴われなければなりません。また職業上の健康と安全規則を定めて、職場を発癌性物質や内分泌かく乱物質などの危険物質から、またナノ物質などの新しい危険から確実に守らなければなりません。これらの予防対策の手引となるILO基準――155、170、139――があり、各国政府はそれらを批准し実施するのに5年の猶予があります。

進歩に取り組む各国政府に労働組合は味方します。私たちは、化学物質の持続可能な使用達成のための職場における重要な協力者です。労働組合が組織された職場はより安全で、労働組合の代表が企業の合同委員会に参加し、関与が許され、必要な手段、訓練、知識が与えられている時、死亡や疾病を防止できることを、いくつかの研究が示しています。労働組合が必要不可欠とされている時、よりよい結果が生まれます。

非常に重要なことですが、労働組合は規則の強化によって仕事が犠牲になるかもしれないことを恐れていません。逆に、労働組合は将来の雇用創出のために産業界改革アジェンダを支持します。私たちには革新的な産業が必要です。また労働者の健康を守る生産方針を策定し、環境を尊重し、より安全な製造工程を確立し、クリーンな科学技術の研究開発を行うための革新的な産業政策が必要です。これは生産サイクル全体とサプライチェーンの全過程で総合的に行われなければなりません。そうすれば、私たちは世界の雇用創出にそのような変革の可能性があることを確信できます。

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出典:Our Planet 2016 Vol.1(通巻41号)