都市の環境保護政策

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ティム・カステン
(TIM KASTEN)
UNEP政策開発課長 都市環境活動管理担当

地球規模で考え、地域から実践しよう──。このスローガンは、何十年もの間あちこちで掲げられてきました。しかし世界中急速な都市化が進み、その影響が色濃い今ほど、このスローガンが実際に意味を持つ時はないと思います。

1950年の時点では、都会や街に住む人の割合は3人に1人以下でした。今では30億人、つまり総人口の約半数が都市部で暮らしています。2030年までには、ほぼ3人に2人が都市部に住み、この都市における人口増加の90%は、開発途上国でみられると考えられています。

1950年には、1000万人を超える住民をかかえる都市は、ニューヨークだけでした。しかし2015年までには、このような“巨大都市”は23を数え、そのうち19の都市は途上国になると推測されています。けれども今後、最も急速に都市化が進むであろう場所は、これら大都市ではなくて、現在50万人以下の人口が暮らす中核都市なのです。

急速に都市化が進む理由としては、経済的・社会的・文化的な背景があります。これまで先進国での都市化現象は、おもに経済成長によるものでした。結果として求人募集がある都会に、生産性も生まれていたのです。

しかし近年になって、途上国でみられる都市化は、仕事の有無とは必ずしも関連していません。社会への興味から、あるいは就職を夢みて都会に来る人々は、行き着くところ希望を失いスラムから抜け出せなくなってしまうのです。特にアジア・アフリカ・ラテンアメリカにおいては、10億人を超える人々がこのような状況にあり、今後は、たった15年間でさらに倍に増える可能性があります。

ここで環境にとって重要な点は、なぜ都市化が進むのかではなく、それがどのように進行するかということです。またその結果、地球とその生態系にどのような影響を及ぼすのかも注目すべき点と言えます。

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住んでいる場所が都市でも農村でも、自然の生態系は私たちが生きていくための条件になるものです。それは私たちに、空気、飲料水、食物を提供しています。生態系は空気を浄化し(たとえば木を通じて)、水をろ過すること(たとえば湿地帯によって)で環境を整えています。つまり、自然の生態系のおかげで、私たちの生活を豊かにしてくれる緑あふれる場所や広々とした原野が手に入り、そこで私たちは自分をリフレッシュしたり平和な気分を味わったりすることができるのです。

こうした環境を整える作用のうち、ひとつでも機能しなくなれば、私たちの暮らしの快適さすべてが危険にさらされてしまいます。都市はその境界の外の生態系から、たとえば農村の耕作地、森林、集水池から、燃料や食物や水などの膨大な物資を“輸入”します。そして都市はゴミ・廃水・汚染された大気などの廃棄物を都市の外へと“輸出”します。このどちらの過程も、生態系の働きに影響を与えるのです。

都市化が進むにつれて、生態系の破壊は都市の境界線を超え、国あるいは地球レベルで広がっています。たとえば森林の伐採とか、都市周辺や地方の危機に瀕した生態系の中での無計画な住宅建設などによって、将来を考えない“物資輸入”が起こり、それが原因となって、多様な生物分布を支える森林と湿地帯の生態系がおびやかされることになるのです。

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また、都市が膨張して、その廃棄物処理能力の限界を超えると、今度は廃棄物を“輸出”し、下流の河川や海水はますます汚染されます。また、大気汚染には境界線がありません。そして気候変動の原因である温室効果ガスの約80%は、都市から排出されているのです。

急速な都市化への対応を迫られている地方自治体にとっては、この気候変動は今すぐ気にかけるべき問題ではないかもしれません。それでも、その結果として頻発する巨大な嵐によって、特にハリケーンの脅威にさらされている海岸沿いの都市では、多大な人的被害と経済的損失をこうむるのです。

気候の変動は、予測できない気温の変化、それも激しい変化につながります。結果として、生産活動や冷暖房に費やすエネルギー消費が都市で上昇するので、さらなる温室効果ガスを排出するという悪循環に陥ってしまうのです。

持続可能な解決方法

持続可能な解決方法は、存在します。さらに重要なことですが、地域と地球環境がそれぞれかかえている問題を、同時に解決する方法があるのです。

たとえば、都心の大気汚染と世界的な気候変動の最も大きな原因である、輸送手段とエネルギー生成を改善してはどうでしょうか。よりクリーンな輸送用の燃料と環境にやさしい乗り物、天然ガスのようなクリーンな家庭用燃料、再生可能なエネルギー資源、さらにはエネルギー効率の改善などにより大幅に大気汚染を減らし、地球温暖化を軽減することが可能です。

空気がきれいになれば公衆衛生もよくなり、結果として住民とコミュニティにより高い生産性と経済利益をもたらすでしょう。水資源の問題もまた、地域だけにとどまらず世界につながる分野であり、そうした立場をとれば問題の解決方法も見えてきます。

燃料としての木材を都市に“輸入”するために地方の森林を伐採することも、きちんと処理していない廃棄物や汚水を“輸出”することも、貴重な生態系と水資源を劣化させます。ひとたび生態系がダメージを受けると、川床は都市に水を供給したり、備蓄したり、あるいは都市の水源を浄化したりする能力を失います。

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しかし、これまで都市の域外にあるこうした水資源の保護に投資してきた自治体は、都市の中での水浄化処理のコストを節約できたのです。2005年の世界環境デーのテーマは「緑の都市──地球環境を視野に入れた計画」ですが、これは、地域と地球とのつながりを体現し、その見地からのさまざまな解決方法をともに考え、議論して学ぶよい機会を提供してくれています。

公共の交通機関・エネルギー・都心部の緑地・水資源の管理などについて、最善の実施例を知らせあい、また発展させることこそが重要なのです。世界中のすべての都市が、その地域的な利益、共通の利益の両方のために一体になって協力すべきです。学ぶべき教訓は世界中にあるのですから。

2000年、世界各国はミレニアム開発目標(MDGs)に同意しました。7番目の目標である「環境の持続性確保」 は、MDGs全体を織り上げる糸のようなものです。急速に進む都市化は、このせっかくのMDGという織物をほどいてしまうことになりかねません。その恐れを取りのぞくためにも、生態系こそが都心に暮らす住人にとって必要不可欠なサービスを提供しているのだと認識し、開発計画にそうした見方を盛りこまなければならないのです。

出典:Our Planet 2005 Vol.1