ブルーカーボン

問題点:

“ブルーカーボン”生態系(マングローブ、塩性湿地、海草)は、効果的な二酸化炭素吸収源として機能する。

膨大な量の有機炭素を貯留するほか、コミュニティを維持し、食糧を確保し、気候変動への適応に役立つ、さまざまなサービスを提供している。

これらのシステムによって気候変動に関連する生態系サービスが提供されることが、経営陣による介入や再生に非常に適しており、多くの国にコスト効率の良い適応・緩和戦略をもたらす可能性があることは明らかである。

転用され劣化した沿岸湿地が吸収した二酸化炭素は、2012年の概観では世界全体で年間1億5,000万~10億2,000万トンにもなると見ている。

これらの排出は、世界全体の森林減少の3~19%に相当し、1億5,000万トンはベネズエラの排出量、10億2,000万トンは日本の排出量に等しい。しかしながら、マングローブや塩性湿地、藻場は、多くの陸上生態系よりも速い年間1~2%のペースで消失している。

生態系サービスの衰退という観点から見ると、これは極めて重大な懸念事項である。

さらに、このような価値は国の管理や国際交渉の場で見落とされることが多い。

ブルーカーボン解決策:

地球環境ファシリティ(GEF)、アブダビ・グローバル環境データ・イニシアティブ(AGEDI)、GRIDアレンダールなど、さまざまなパートナーと協力関係にあるUNEPは、「ブルーカーボン・イニシアティブ」の先頭に立っている。

これは、炭素に価値を与え、それらの価値を利用して沿岸生態系サービスが沿岸域管理の向上のためのインセンティブを生み出すよう促進するものである。

同時に、このプロジェクトは国際社会による気候変動への緩和・適応を支援している。

プロジェクトでは、適切な方法論の開発について研究し、調査を支援している。

また、沿岸生態系の管理における生態系サービスへの支払いや炭素市場といった一部の考え方を実践する国家プロジェクトを支援し、持続可能な資金の流れを作っている。

生態系を賢く管理し、然るべき市場を開拓すれば、海岸線の保護、観光、水質管理、漁業による食糧の供給といった生態系 サービスと炭素クレジットは収入源となる。

ゆえに、健全な生態系は、ある種の持続不可能な開発(古くから行われている持続不可能なエビ養殖や、環境に害を及ぼす沿岸域開発など)よりも利益性が高くなり、適切な資金の活用や健全な管理上の意思決定に役立つ可能性がある。

UNEPは、アラブ首長国連邦、モザンビーク、マダガスカル、カメルーン、ケニア、エクアドル、インドネシアといった国のパートナーと共に、コンセプトや科学研究を、沿岸域管理と気候変動に対する実際的な解決策へと転換させる適切なメカニズムについて調査している。

また、地域社会にとっても国際社会にとっても重要な沿岸域の炭素と生態系サービスに対する認知度の向上にも取り組んでいる。

したがって、ブルーカーボンは、世界の気候変動緩和策のひとつに新たなツールとして加わったのである。

アブダビ:

「アブダビ・ブルーカーボン・デモンストレーション・プロジェクト」は、GRIDアレンダール、UNEP、フォレスト・トレンズ、世界自然保全モニタリングセンター(WCMC)と協力し、AGEDIが主導しているプロジェクトである。

アブダビの沿岸生態系(マングローブ、海草、サブカ)に価値を与えることに重点的に取り組み、ブルーカーボンを利用してアラブ首長国連邦の二酸化炭素排出の一部をオフセットする機会を探っている。

アブダビでは一人当たりの排出量が多いこと、また大規模な沿岸域開発により沿岸生息地が消失していることを考えると、沿岸域管理の向上と気候変動の緩和を同時に行うチャンスがある。

さらに、プロジェクトによって国際基準を設けて検証し、同時に世界中の科学者の参加を促し教育することで、アブダビはブルーカーボンのグローバルリーダーになろうとしている。

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生態系に基づく適応策:

UNEPは「気候変動適応・開発プログラム」を通じ、ウガンダの国家農業研究機構(NARO)が降雨量や降雨パターンなど の農業気象情報を収集・記録・分析する効率的なシステムを開発し、作物生産の不安定性に関する知識を強化するうえで支援を提供した。

科学と政策・実践との結びつきを示す例として、同プログラムはウガンダの作物生産に関する農業気象上の気候リスクと不安定性を明らかにした。

これにより、降雨の季節的特徴に関する情報が得られたのである。

これらの情報は、耕作の開始・休止時期や耕作期間といった季節的特徴を組み込んで収穫量を改善・安定させるために、季節別の雨量分布を活用する機会を提供するものだ。

この情報を利用して、トウモロコシ生産における環境保全型農業や総合的な養分管理、アグロフォレストリー、土地管理の慣例としての植林地の創設などの生態系に基づく適応(EbA)アプローチが介入の一環として行われた。

それらは、自然林の保全に役立つ可能性のある土壌肥沃度や土壌保全、木質燃料の供給の改善を目指すもので、その過程において環境衛生の改善につながった。

この情報は、代替作物や作物の多様化の指針となった。

全体像、持続可能性、分野横断的テーマ:

生態系に基づく適応アプローチでは、土壌と水の保全や、生物窒素固定を促進するマメ科の被覆作物(インゲン豆類)の利用によって、農地レベルで生産性が向上することが実証された。

また、保全技術によって作付けコストが75%も削減され、農作業の時間も短縮したため、農民は他の事業に手を広げることができ、地方の貧困の削減にも役立ったのである。

さらに、農民が化学的な肥料や農薬の使用を減らしたことで環境に利益がもたらされ、土壌の状態が改善された。

食生活により多くのタンパク質をもたらす豆類とトウモロコシの交互作という新たな収穫システムによって、地元の住民の栄養状態も改善された。

加えて、プロジェクトに参加した農民の成功が他の農民の刺激となり、同様の方法を導入させることになったのである。

開発されたリスク指標は国土利用政策や国家開発計画(NDP)などの国の開発計画や政策に組み込まれ、このプロジェクトの成功は、NAROがフォローアップ活動のためのさらなる資金援助をロックフェラー財団から引き出す際に役立った。

かつて“移動生活”を送っていた多くの人々がそれぞれの村に戻り、現在は適応した農業技術を利用しているため、収穫量が非常に増加した。

あるプロジェクト実施現場1カ所だけで、80名の農民が紹介された方法を採用した。

研修を行い、気候変動のリスクに立ち向かうために見習うべきベストプラクティスに関する情報の作成を支援することにより、収穫量が増加し、農家の収入が保証され、草の根レベルで貧困への取り組みが行われるようになっている。

 

出典:Our Planet 2013 Vol.1(通巻30号)