川も人間同様、権利を持っている

課題は残るものの、インドで出された先駆的な判決は、同地域における重要河川の汚染問題が解決される可能性を示しました。
―アーヴィンド・クマール(インド水基金 代表兼創設者)―
北インドのウッタラーカンド州高等裁判所は、ガンジス川とヤムナ川について“生きている人と同様の義務と権利を持つ”権利主体であると認める歴史的な裁定を下しました。
いずれの河川も汚染が問題となっており、ガンジス川には毎日10億ガロン(1ガロン=3.785リットル)もの排水が、下水道・皮なめし工場・そして和式トイレから流れ込みます。ガンジス川の主要な支流であるヤムナ川もまた下水及び工業排水により汚染されており、汚染物質が滞留している地点も見られるほどです。専門家によれば、河川付近の下水処理施設はそのほとんどが設計された通りに機能していないそうです。
高等裁判所の判決は、両河川におけるごみの投棄を直ちに接止めることには繋がらないという懐疑的な意見も見られます。ナレンドラ・モディ首相が打ち出した「ナマミ・ガンジー」(ガンジス川へ敬意を)という清掃プロジェクトも大成功とは言いがたい状況にあります。というのも、工業排水による汚染がプロジェクトの開始以来3分の2に削減できたというのは、国内メディアによる報告書と矛盾するからです。この政府公式プロジェクトがうまくいかなかった要因は河川流域の管理を怠ったこと、水資源の管理不足、そして地域コミュニティによる参画がなかったことが挙げられると主張する専門家もいます。
ヨーロッパのライン川(ガンジス川の半分程度の長さ)の汚染回復にはおよそ30年間、450億ドルが費やされたと伝えられます。しかし「ナマミ・ガンジー」の予算は5年間で30億ドルにとどまり、2014年以降に割り当てられた資金は部分的にしか活用されていません。
環境分野の活動家は、ガンジス川とヤムナ川が生きた存在であると宣言するだけでは、両河川を救うことはできないだろうと指摘しています。代わりに国家の役人と汚染者たる企業、それに市民が一体となって、汚染を食い止めるために行動を起こす必要があると述べています。草の根レベルで活動を続けてきた我々インド水基金の経験上、河川の汚染を食い止めるためには全てのステークホルダーに対する能力構築が不可欠です。とりわけ、ガンジス川の自浄作用という特性に長く依存してきた文化的態度を改める必要があると強調します。

River Ganges

River Ganges

多くの環境活動家及び法律の専門家は、中央政府に加え河川流域にあたる州政府も汚染対策の立法措置を取る必要性があるとも指摘し、高等裁判所による判決の影響力には疑問を呈しています。また、両河川における汚染が法的保護の欠如から起こっているものではなく、汚染源に対する行動を起こす能力の欠如によるものなのかという疑問もあります。彼らはさらに、過失により汚染が起きてしまった場合に、河川の保護者たる代理人を任命して賠償金請求訴訟を起こす必要があるかどうかも議論すべきだとも主張しています。
高等裁判所の判決が近視眼的であると考えている法律家もいます。河川が流れている他の州の利益を省みずに、ウッタラーカンド州において保護を受ける地位を付与したからです。ガンジス川はウッタラーカンド州、ウッタル・プラデーシュ州、ビハール州、ジャカールカンド州と西ベンガル州にまたがり、全長2,525キロメートルのうちウッタラーカンド州を流れているのは僅か96キロメートルなのです。全長1,376キロメートルのヤムナ川はハリヤーナー州、ヒマーチャル・プラデーシュ州、デリー首都圏、ウッタル・プラデーシュ州を流れていますが、ウッタラーカンド州を流れるのはそのほんの一部にすぎません。
効果については疑念が投げかけられているものの、今回の判決は2本の重要な河川を横行する汚染から救うべく努力をしなければならないという危機感を反映させていると言えます。そして河川はコモンズであり、異なる機関によってばらばらに所有し管理されるのではなく、統合された一つの実体として捉える前進的かつ民主的な立法の礎になります。また、河川の保護と清掃に関しては、河川に寄り添って生活をしている地域コミュニティを民主的に代表し、その参画を確保しなければなりません。
したがって、あらゆるステークホルダーがより深く広い対話を推し進めていくためのこの機会を逃すべきではありません。これはまた、汚染問題という困難を、ガンジス・ヤムナ両河川及びその他の河川の初期の栄光を回復する機会へと読み替えるための、適切な立法に向けた好機ともなります。

UNEP Stories 9月6日より

The rights of rivers