今はオーストラリアで、もうすぐ世界でも

ジャン・パルティコフ
(JEAN PALUTIKOF)
グリフィス大学国立気候変動適応研究ファシリティ(NCCARF)
オーストラリア・ゴールドコースト

“最高か最悪か”と形容されてきたオーストラリアの気候は、先進諸国で最も不安定な気候のひとつです。数年にわたる干ばつの間に降雨量の多い時期が何度も発生し、それが広範囲で洪水を引き起こします。オーストラリア東部、とりわけクイーンズランド州では、それらの不安定な天候はエルニーニョ南方振動による影響の変化に反応して発生するものです。

オーストラリアの人々は、農業などの気候に左右される産業に対するそのような厄介な影響にうまく対処し、気象関連の災害と折り合いを付けることに慣れています。ある点までは、気候変動の影響に適応することは、単に経年的な変動への対応の延長上にあるのです。すでに少なくとも1つの地域において気候変動の影響が感じられ、必然的に措置が講じられています。

オーストラリア南西部の降雨量は約30年間、平均値をはるかに下回っており、安全かつ安定した飲料水の供給が、現実に困難な問題として突き付けられています(図参照)。

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この問題に対しては、地表の貯水池から、脱塩施設や深い帯水層、そしてリサイクルといった気候に左右されにくい水供給源に重点を移す取り組みが行われています。170万人の人口を抱える都市、パースは現在、給水量の約30%を淡水化した海水から得ており、今後6カ月以内に新しい処理施設が稼働すれば、この割合は45%まで上昇するでしょう。

しかしながら、その費用は安くはありません。水の需要量の15%をまかなう最初の脱塩施設は9億ドル、さらに15%をまかなう2番目の施設には7億ドルの費用がかかりま した。

さらに、淡水化には莫大なエネルギーが必要ですが、再生可能エネルギー源によるものはごく一部にすぎず、高濃度の塩水が産出されてしまうため、環境に対する懸念も高まっています。南西部の各地で、小規模のコミュニティでは給水車と緊急パイプラインの両方を使用していますが、彼らは、なお長期的で持続可能な解決策を必要としています。

パース市民は、水供給量の減少に応じて使用量を減らすことに消極的でした。夏の家庭用水の使用量は冬の2倍で、つまりそのおよそ半分の量が屋外で、おもに庭の水やりに使われているわけです。市民は今なお、自分たちに供給される水は天候に左右されず、それゆえ無制限であると考えており、青々とした芝生やプール、洗車などに惜しげもなく水を使用するパターンを続けているのです。

ある意味で、パースの水資源管理担当者は自らの成功の犠牲者だと言えるでしょう。

対照的に、大陸の反対側のクイーンズランド州南西部では、今でもおもに地表の貯水池から水が供給されており、貯水池の水位の低下を目にした市民が節水の必要性を確信して、実際に水の使用量を減らすことに成功し、それを維持しています。

オーストラリア南西部の政策決定者は、減少しつつある水資源への対応に努めるうえで、多くの問題に直面しています。

生物多様性を維持するためには、どのように自然環境を守ればよいのか?
現在の地域の人口は持続可能な人数なのか?
乾燥地の農業はどうなっていくのか?
政府はどのように転換のための変化を促進すべきなのか?

これらは、オーストラリア南西部が現在直面している問題ですが、オーストラリアの他の地域や世界の課題となるのも時間の問題です。オーストラリア南西部以外で、気候変動の兆候がはっきりと現れている場所はありません。

オーストラリア東部では、2年にわたるラニーニャ現象により広範囲が被害を受け、生命が奪われましたが、今はなんとか切り抜け、ダムが満杯になりました。不安定な気候の影響は猛暑や山火事にも見られ、ラニーニャからエルニーニョに気象パターンが変化したため、干ばつの再発という形でも影響が認められます。

しかし、オーストラリア南西部では気候変動が起こっている様子が広く認識されていますが、他の場所ではそうではありません。

オーストラリア気象局が定期的にグラフを作成し、地球温暖化に伴う気温上昇や、世界のよりもはるかに速いペースで海水温が上昇していることを示しているにもかかわらず、異常気象は“正常”と考えられているのです。

オーストラリア連邦政府はこの2年間、炭素価格の導入に膨大な時間と労力を費やしてきました。現在、炭素価格は1トン当たり23豪ドルに固定されており、2015年には変動制になる予定です。

最近、特に国際交渉が遅々として進まないことを受けて、気候変動適応策の必要性が認識されるようになりました。

「Barriers to Effective Adaptation to Climate Change(=効果的な気候変動適応への障壁)」に関する報告は、気候変動適応に果たす市場の力と政府の役割について調査するという責務を負ったものです。

法律、規制、あるいは奨励策によって、政府が積極的に適応を促進する必要があるのか?
市場の力によって、どの程度までオーストラリアは適応に成功できるのか?
市場の失敗の可能性はどこに潜んでいるのか?

この報告書が2013年初めに一般公開されることが待ち望まれます。
「Barriers to Effective Adaptation to Climate Change」レポート(英語版)へリンク
(2013年3月14日に発行されました)

将来、気候変動の影響を受けたオーストラリアはどんな様子なのでしょうか?
オーストラリアの人々の生活はどうなるのでしょう?

現在の猛暑が“普通”になり、激しい山火事の危険が常に付きまとい、降雨に依存する水源が不十分になれば、すでにかなり都市化の進んでいる人口は、海水を淡水化した水が比較的容易に供給され、山火事から身を守ることのできる沿岸域の都市にさらに集中するでしょう。農業はフライイン・フライアウト方式になり、地方の集落の過疎化はさらに進むでしょう。

快適な生活水準を実現しようとすれば、水をくみ上げるポンプや住宅の冷房、公共交通機関の動力などに、膨大な量のエネルギーが必要になります。そのエネルギーをどうやって生み出すのでしょうか?太陽光?それとも原子力?

オーストラリアは豊富な太陽エネルギーに恵まれていますが、既存の送電システムは、太陽エネルギーを含む分散給電システムから送電するように設計されていません。海洋、陸上、淡水の生物多様性は現在とは様変わりし、社会の認識と圧力がなければ、激しく劣化する可能性があります。

オーストラリアは、非常に不安定な気候に対応し、気候変動の最初の兆候に適応しつつあります。その教訓は全世界にメッセージを伝えます。

質の高い持続可能な暮らしと環境を実現するための効果的な気候変動適応策には、政治的意思と、明確に定められ、合意を得た目標への人々の取り組みが必要なのです。

 

出典:Our Planet 2013 Vol.1(通巻30号)