食料を作るには虫や動物がいなくちゃ!

食料を作るには虫や動物がいなくちゃ!

食料を生産するための農業は、人間の力だけでやれると考えているのでは?

だとしたら、もう一度よく考えてみよう。野生のハチ、チョウ、ガ、甲虫、コウモリやその他いろいろな動物が、作物の受粉を手伝ってくれなければ、世界は必ず食料不足になってしまう。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界のほとんどの国の食料の90%をまかなっている100種類以上の作物種のうち、70%以上がミツバチを経由して受粉しているという。

だがミツバチだけではない。他の昆虫――ガ、ハエ、スズメバチ、甲虫、チョウ――や鳥類や哺乳類も、世界中にある花が咲く植物のほとんどの繁殖プロセスに必要なのだ。この中には食用植物の3分の2以上が含まれている。

われわれはつい最近まで、この不可欠で貴重な無料のサービスを当然のように考えていた。 花粉を運ぶ動物は人目につかず、しかも非常にうまくその仕事をやってのけるので、多くの場合は、彼らの果たす役割の全容を知ることもない。

しかし今、花粉を運ぶ動物の個体数が減少し、農家の生活をおびやかし、世界の食料確保を圧迫しているという証拠が出てきているのだ。

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すべての花を咲かせる植物が花粉を届ける動物を必要としているわけではなく、穀草類のように風が運ぶものもある。しかし、花粉を運ぶ動物が必要な植物にとっては、種子の生成と果実の成長に影響が出てしまう。

たとえば、花粉を運ぶ動物が多くやってくるスイカは、色や香りがまさっている。そして収穫量にも影響する。

コスタリカのコーヒー栽培の生態系研究によると、近隣の森にすむ野生ミツバチが収穫量を20%増やすのに役立ったことがわかった。

また食料価格も影響を受ける。バニラは高価だが、その理由は、メキシコ以外の場所で栽培されると、天然の花粉を運ぶ動物であるハリナシミツバチ(Melipona bee)がいないため、人工授粉しなければならないからである。

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現在、世界中で花粉を運ぶ動物の個体数が減少していることを示す証拠が出てきている。

ヨーロッパと北アメリカのミツバチの個体数は激減し、多くの野生ミツバチのコロニーが消えつつある。ヨーロッパのチョウは、集約農法と土地利用の変化によって絶滅が危惧されている。少なくとも45 種のコウモリ、36 種の飛ばない哺乳類、26 種のハチドリ、70種のスズメ類など、多くの哺乳類や鳥類の運び屋も、絶滅の危機にひんしているか、絶滅してしまったと考えられている。

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2002年の国連生物多様性条約(CBD)締約国会議では、花粉を運ぶ動物の状態について 未知の部分が多いことを認め、「花粉媒介者の保全および持続可能な利用のための国際イニシアティブ」を設置した。

このイニシアティブではFAOが先頭に立って、植物の受粉のニーズ、花粉を運ぶ動物の個体数の動向、生息地や生息回廊では何が必要かなどのデータ収集プログラムを実施し、土地の利用法や農薬などにともなう人間からの悪影響を受けずにすむ方法を明らかにし、推進している。

このデータ情報は、花粉を運ぶ動物にやさしい活動をすすめ、その健全な生育を後押しするために使われる。一つ確かなのは、花粉を運ぶ動物のサービスを金額で表すのは難しいが、それがなくては絶対生きていけないことにわれわれがやっと気づいたということだ。

受粉の世界あれこれ

ヤシとゾウムシ

1960年代にマレーシアで初めて西アフリカの油ヤシが栽培されたとき、農園経営者は大きな問題に気がついた。

ヤシの木は元気そうなのに、受粉できないためほとんど実をつけないのだ。農場で働く人たちは、金も時間もかかる人工授粉という手段を取るしかなかった。だがまもなく研究者たちは、ヤシの木の原産地であるカメルーンでは、この花粉を主食としているゾウムシ(Elaeidobius Kamerunicus)がヤシに受粉していることを知った。

1981年にゾウムシがマレーシアの油ヤシの農園に持ち込まれ、それから5年ほどの間に生産量は1,000万トン増加した。

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イチジクとコバチ

両者は約6,000万年前からの仲良しだ。

体長 2ミリのイチジクコバチ(イチジクコバチ科)は、イチジクの内部でしか交配することができず、イチジクはイチジクコバチ以外の動物では受粉ができなかった。(イチジクにもコバチにも900ほどの種がいて、互いに特定の相手とだけ適合している)

イチジクの花は、実の内部の空洞に咲くので外からは見えない。コバチのメスは孔口(こうこう)と呼ばれる開かれた部分から実の中へ入り、柱頭に受粉して産卵する。

卵がかえると、新しいメスとオスがつがいになり、オスが実をかんで穴をあけ、花粉まみれのメスを外へ出してやる。メスは新しい木を見つけに行くが、オスはその後まもなく死んで しまう。

コバチが実を出てしまえば、イチジクは熟し、食べごろになるというわけだ。

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コウモリとサボテン

生まれ故郷のメキシコとアメリカ南部とを移動するハナナガサシオコウモリ(Leptonycteris nivalis)は、さまざまな砂漠の植物、特にアオノリュウゼツランにとって花粉を運ぶ重要な存在である。

リュウゼツランとして知られるこの歴史的に重要なサボテンからは、蜜やジュースが取れ、それを発酵させて「プルケ」という飲み物を作ったり、蒸溜してテキーラやメスカルなどの蒸留酒を作ったりする。また、それから取った繊維は「ピタ」と呼ばれ、縄やマットなどの編み物に使う。

コウモリは夜間に匂いを頼りに咲いている花をかぎつけ、食事をする。科学者たちは、コウモリとリュウゼツランは共進化してきたらしく、お互いに相手に依存しながら生き残ってきたと考えている。

また両者は中枢種であり、ハチ、ガ、トカゲ、ハチドリ、野ネズミなどの他の多くの動物は、これらのコウモリが受粉するこのサボテンに依存して生きている。

またコウモリは地域間を移動するため、ひとつの地域の生息地が破壊されると、他の地域の生態系にもその影響が及ぶ。たとえば、メキシコのコウモリが絶滅すると、テキサス州のリュウゼツランの個体数や生物多様性にも影響が生じてしまう。

そうそう、それから野生のバナナやマンゴーやグアバに受粉し、その種をまき散らしてくれる、ありがたいオオコウモリのことも忘れないように!

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ミツバチなくして食べ物なし

これはちょっとオーバーだが、ミツバチがいなければ、リンゴ、モモ、イチゴ、サクランボ、チョコレートなど、われわれが当たり前のように食べているものの多くが手に入らなくなるのは本当である。

事実、ミツバチはわれわれが食べるくだものや野菜の約80%を受粉しているのだ。だが、“蜂群崩壊(ほうぐんほうかい)症候群”が重大な心配事としてトップニュースになっている。

“蜂群崩壊症候群”というのは、過去10年の間に世界中で生じたミツバチのコロニーの減少を示す言葉だ。

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なぜこんなことが起きているのか、具体的な原因を一つ取り上げることはできていないが、UNEPによると、研究者たちは、この問題には次のようないくつかの要因が関係していると考えている。

  • 気候変動によって変化した、生育期と降雨パターン、寄生生物、害虫など
  • 昆虫の食べられる植物も減らす除草剤や農薬
  • 動物の処理に使うものも含む(ある種の化学薬品の混合液はミツバチに対する毒性が1,000倍も強力になることがある)殺虫剤や殺菌剤
  • ミツバチの植物探知能力を損なう恐れがある大気汚染
  • 送電線などの電源から出る電磁場

 

TUNZA日本語版 2013 Vol.1(通巻31号)

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