グラディス・カレマ=ジクソカ
(Gladys Kalema-Zikusoka)
Conservation Through Public Health創設者兼CEO
野生動物の獣医の仕事を始めた頃、私は人間の公衆衛生と生物多様性の保全は互いに関わり合っていることに気づきました。国内の野生生物の管理を義務付けられた半官半民組織であるウガンダ野生生物局の初の獣医として、1996年に私はチームを率いてブウィンディ原生国立公園で絶滅危惧IA類のマウンテンゴリラの疥癬(ひぜん)の大流行を調査しました。ゴリラに最も近い“国内”の親戚である人間こそが、生まれたてのゴリラの死亡やグループ内の残りのゴリラの病気の原因となった、貧困に起因する病気、すなわち疥癬の原因でした。人間の疥癬の治療に一般的に使用されるイベルメクチン治療でのみ、それは回復したのです。人間とDNAの98.4%が共通しつつ、ダニを介する疥癬に弱いゴリラは、国立公園の外のコミュニティの庭に餌をあさりに出て、ダニのついた衣服と接触したことでこの病気に侵されてしまいました。
疥癬をはじめとして人間と動物の両方に広まる人獣共通感染症は、中央アフリカで両方向に進んでいます。エボラは何千ものゴリラやチンパンジーを死に至らしめ、それらに接したり食べたりした人間にも感染しました。伝染病は今や生息地の破壊、侵入種、汚染、人口増加や過剰伐採に並ぶほど、生物多様性への脅威として認識されています。私たちは2003年に「Conservation Through Public Health(CTPH=公衆衛生による保全)」(www.ctph.org)というNGO団体を発足し、生物多様性の保全を脅かす存在である伝染病に取り組みました。そして貧困と高い人口増加率も、問題の一部であることを発見しました。
1年間で西アフリカの1万人以上の命を奪った、公衆衛生上極めて重大な病気であるエボラは、どのように生物多様性保全に関連しているのでしょう?
クウェバウイルス属、マールブルグウイルス属を含むフィロウイルス科のウイルスは、出血熱を引き起こします。これはスーダンのヌザラとコンゴ民主共和国のヤンブクのエボラ川近くの村で起きた2 度の大流行で、1976年に初めて発見されました。感染した野生生物との接触から人間に感染することが可能で、急速に家族やコミュニティの間に広まっていきます。
特定されている5種のエボラウイルス――ザイール、ブンディブギョ 、スーダン、レストン、タイフォレスト――のうち、はじめの3種はアフリカで大きな大流行を起こしたことがあります。2014年の西アフリカでの大流行はザイール種でした。致死率はブンディブギョエボラウイルスの 25%からザイール種の 60~90%まで幅広いですが、集中的な水分補給と対症療法を適切に行えば、生存率は改善できます。コストと実行可能性を考えると、野生の類人猿のワクチン接種が進む道程はまだ長いかもしれませんが、認可済みエボラワクチンは人間と類人猿の双方での評価が進んでいます。
人間は家族を食べさせるために森林で木を伐採し、野生生物を狩ります。アフリカでは最も貧しい人々が保護区域の近くに住み、基本的な必需品を天然資源に依存していることが多くあります。不運にもこのことが、エボラや森林のオオコウモリによるマールブルグ病といった病気が発生した際に感染するリスクを増しています。また、人々は大家族の食事を調理するためや、商売として売るために、木を切り倒して薪を得ます。そして木材会社は材木の持続可能でない需要を生み出し、急速な森林減少や、人間と野生生物とのより密接な接触を招きます。
人間は、さらに収入を得るために野生生物を狩ります。特に野生動物の肉がご馳走であり、需要が大きいこの地域では顕著です。そのうえで信仰もあります。たとえば、ブウィンディ原生国立公園で子供が病気になれば、父親は子供の治癒に役立つと信じてダイカー(=ウシ科の動物)を狩りに森林へ入ります。中央アフリカでは、ゴリラやチンパンジーを食べることで、これらの動物と同じようにたくましく、または賢くなれると信じています。
感染したオオコウモリもエボラの感染源であると考えられています。より近年の研究では、昆虫食コウモリも感染源である可能性が示されています。オオコウモリに接する猿や類人猿も感染し、死んでいます。ニシローランドゴリラは今も10万頭以上いますが、IUCN(国際自然保護連合)レッドリストで“絶滅危惧IA類”に登録されているのは、この15年間で5,000頭ほどがエボラで亡くなっているからです。そのため、森林で野生生物を狩って食べている人々はエボラに罹患するリスクが非常に大きくなっています。感染しているオオコウモリや猿や類人猿との接触や、その生肉を摂取することによる、野生生物から人間への感染のリスクを減らすことは、公衆衛生と保全の双方にかかっています。動物に触る時は手袋や適切な防護服を着用する、畜産物はよく火を通して食べるなどの公衆衛生対策は、現状対策としては重要ですが、原因に取り組んでいるわけではありません。
エボラの原因に取り組むには、野生生物の食用や森林伐採、特に油ヤシや木材といった商業目的の伐採をやめるべきです。野生動物の肉を食べることによる人獣共通感染症への感染リスクの教育、保護区域外の木材のための針葉樹の植林、ヤギや豚や牛といった“より安全”な家畜動物からの動物性タンパク質の摂取の促進、森林の外でのホロホロチョウなどの野生生物の飼育、などを含む、実行可能でより危険の少ない代替案が検討可能です。
2013年にCTPHをパートナーとして承認し、大型類人猿の保全に尽力している100近くの団体をまとめている「大型類人猿保全計画(GRASP)」は、独自の6つの優先事項に沿って人獣共通感染症をモニタリングしています。世界保健機関(WHO)、CTPH、ウガンダ野生生物局は「ウガンダ国家疾病タスクフォース」のメンバーです。保健省や農業・畜産・水産省が牽引し、同タスクフォースは“One Health(=健康はひとつ)”アプローチを用いてあらゆる関連部門を巻き込み、エボラ、マールブルグ病、炭疽病といった野生生物に関連した病気の大流行に対応します。力を合わせれば、森林伐採と野生生物の乱獲をやめることで、私たちは人間の命と重要な生物多様性がこれ以上犠牲になることを防げるのです。
出典:Our Planet 2015 Vol.3(通巻40号)
エボラにかかったゴリラやチンパンジーに接したり食べたりした人間にも感染したという。1年間で西アフリカの1万人以上の命を奪ったエボラが、どう生物多様性保全に関連しているか。知らない土地で起きていることをもっと知らなくてはいけない。