多くの行きすぎた行為――生息地の破壊や乱獲など――は、すでに生物種を絶滅に追いやろうとしている。
そして、いくつかの生物にとって気候変動は、おそらくとどめの一撃となるだろう。
昨年の12月、国際自然保護連合(IUCN)は、地球温暖化で特に危険にさらされている生物についての調査報告を公表した。そのうちの7つの種をここに紹介する。
それでも、IUCNの種の保存委員会(Species Survival Commission:SSC) のサイモン・スチュアート委員長は、「普通の人々でも、これらの悲劇的な損失を食い止める力がある。自分たちのCO2排出量を減らすことができるし、われわれが現在直面している悲劇的な気候予測を変えるために、自分たちの政府による強力な行動への支持を表明することができる」と言う。
1.カクレクマノミ
カクレクマノミは、映画『ファインディング・ニモ』で有名になったが、その実際の生活は小説よりもっと奇妙である。
たとえば、もし群れの中にたった1匹しかいないメスが死んだら、同じ群れの一番大きなオスが性転換して繁殖を続ける。
彼らはまた、ある特定種のイソギンチャクの毒に対する免疫をつくる能力があり、捕食者から身を守るためにイソギンチャクの触手の中に住んで、その下に卵を産みつける。
卵がかえると、幼魚は水中に出されているケミカルシグナル(=ここではにおいを指す)をたどって適したイソギンチャクを見つけ、新しい住みかとする。
しかし、海水が大気からますます多くのCO2を吸収するようになると、酸性化が進んで、カクレクマノミがこうしたシグナルを探し当てるのがさらに困難になる。
2.コアラ
コアラは、食べものにはうるさい動物である。
というのは、彼らは600 種を超えるゴムの木の中で、数十種の葉しか食べないのだ。
ユーカリの葉はもともと栄養分に乏しく、CO2レベルが増えたことでタンパク質が減り、タンニンの濃度が増えている。タンニンは、葉に含まれるタンパク質の消化を大きく妨げる成分である。
減少した栄養分を補おうとするために、食べれば食べるほど消化が悪くなり、栄養分の摂取量もさらに低下する。代わりに、コアラは食用にするゴムの葉の種類をますます選ぶようになり、それらを探し求めて移動する距離がさらに増えていく。
その結果、犬に殺されたり車にはねられたりする危険性が増すのだ。すでに年 4,000頭が、こうして死んでいっている。
干ばつや森林火災が増えたことで、彼らの食糧源はさらに減っていくことだろう。
3.オサガメ
卵を産みつける砂の温度が上昇しているため、オサガメ(=ウミガメの一種)は今後ますます危機に瀕するようになるだろう。なぜなら、不思議なことに砂の温度が子ガメの性別を決めるからだ。
地球温暖化の度合が増すと、オスに対するメスの比率が増大し、生息数の安定度がおびやかされる。
温度上昇はまた、彼らの主食であるクラゲにも影響を与える。クラゲは通常、冷たくて栄養分に富んだ上げ潮の流れの中にいるからだ。
そして、地球温暖化のせいで猛烈な嵐がひんぱんに引き起こされると、砂浜が浸食されたり劣化したりして、カメの巣が短期間のうちに流し去られ、長期的に見てもカメの巣づくりに適した地域の数が減っていくのである。
4.コウテイペンギン
コウテイペンギンは氷に依存している。羽毛が生えそろうまでヒナとして生き続けるために、そして羽毛が抜け換わるために、氷を利用して生きている。
だから彼らは、気温上昇で特に被害を受けやすい。彼らのおもな生息地のひとつである南極半島の西岸の大気温度は、過去50年で3℃近く上昇した。
もし地球の温度がさらに2℃上がると、南緯70度より北の彼らのコロニー(=集団繁殖地)のすべて(全体のほぼ40%)が存続できなくなるだろう。
気温上昇と氷の薄層化のせいで、2001年に起きた氷山とペンギンのコロニーとの衝突のような事故が、さらにひんぱんに起こる可能性もある。
そして、予測される群氷の衰退が引き金となって、彼らがえさとしていて南極の食物ネットワークの基盤でもあるオキアミの数が減少するおそれがある。
5.アロエ・ディコトマ(キーバーツリー)
アロエ・ディコトマ(=和名タカロカイ)ことキーバーツリー――サン族の狩猟者が自分たちの矢筒をこの木で作ったので、“矢筒の木(quiver tree)”と呼ばれる――は、ナミビア共和国の国木である。
砂漠で育ち、多肉質で保水性が高く、この木から飲み水がとれる。朽ちた幹は中をくり抜けば、天然の冷蔵庫として使える。
樹皮は建築材に利用され、花の甘い蜜は昆虫、鳥、そしてヒヒでさえも飲みに来るほどだ。
動物の種は気候変動に適応するのに移動という手段をとれるが、樹木を含む植物の種は移動性に欠けるので、動物に種子をまき散らしてもらうしかない。
しかし、気候変動の影響は南下の傾向にあり、国土の一番北にある樹木が最初に被害を受けやすくなる。現に、多くの木がすでに枯れ果ててしまっている。
6.ホッキョクギツネ
ホッキョクギツネは、最後の氷河期のあとでスウェーデンやフィンランド に住みついた最初のほ乳類の一種であり、現在では、西は遠くアラスカから東ははるかロシアにまで見られる。
このホッキョクギツネは、夏になると、数世代が同居可能な複雑に入り組んだ地下の巣穴の中で子を産む。それぞれ何匹の子が同じメスから生まれるかどうかは、食物の量によって異なる。
だが、このキツネの捕食動物の多く――積雪層の防寒作用に頼って冬を越すレミング(=タビネズミ)やハタネズミなど――は、気候が温暖になったことで危機に見舞われている。
また、気候変動のせいで、ホッキョクギツネの最大の競争相手であり略奪者でもあるアカギツネが、彼らの領域に侵入してきている。
7.ミドリイシ
鹿の枝角の形をしたミドリイシは160 種類にもおよび、世界のサンゴの20%以上を占める。
ミドリイシは――その色をもらい受けている―― 藻類に酸素と栄養分を依存している。しかし海水温が上がるにつれ、藻は必要以上の酸素を発生し、サンゴにとっては有毒となりうる。
その結果、ミドリイシはカラフルな藻を追い出し、“白化”することになる。と同時に、生命を支えていた藻の助けも失ってしまうのだ。
もし数週間以内に海水が正常な温度に戻れば、サンゴが回復する望みはあるが、いったん受けたダメージは完全には復元できず、コロニーの状態が十分に健康を取り戻すことは決してない。
すでに世界中のサンゴ礁の5分の1は、修復がきかないほどまでに損傷している。
TUNZA日本語版 2010 Vol.3(通巻21号)