スラムのない都市

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アンナ・ティバイジュカ
スラム居住者の生活の向上と、新たなスラムの増加を抑止するために、大胆な政策を呼びかける。

都市のスラム街に暮らす人々は、今や世界中で10億人にのぼり、その数は今後25年で2倍になると予測されています。

けれどスラムをそのまま受け入れることができるのなら、避けることもできるはずです。

貧富の差を克服するのは難しいかもしれませんが、貧困層にそこそこの住まいと最低限のサービスを提供することは、だれにも可能なのです。

先進諸国の都市の歴史を見れば、その裏づけは容易です。

19世紀の100年のあいだに、ヨーロッパとアメリカの至るところで都市は大都会へとふくれ上がりました。

ロンドンは1800年当時の人口が80万でしかなかったのに、1900年には650万人を超えました。

リは50万人から300万人に伸びました。

そしてニューヨークの人口は、1900年までに420万人になっていました。

これら都市の貧民層は、悲惨な条件のもとで暮らしていました。

マスメディアが目を向けたので、これらの惨状がどうして生みだされているのか、多くの著名なジャーナリスト、作家が取り上げるところとなりました。

その中には、ディケンズ、メイヒュー、ゾラがいました。

彼らは、政治家や専門家に働きかけて、当時の政策を変えようとしたのです。

人口の移動

それから100年以上経った今、世界の人口のおよそ半数が都市部で暮らしています。

ヨーロッパ、南北アメリカ、カリブ海諸島は、都市や町に住む人口が約70%に落ち着いていますが、

国連ハビタット(後出)の予測では、現在のところまだ農村が主体のアフリカとアジアでも、これから大規模な人口移動が起こると見ています。

現在、世界の都市と町に暮らす30億人のうち、3分の1の10億人はスラム住民です。

そして、もしもこの傾向が続くとしたら、2030年までにそれは20億人になるはずです。アフリカ委員会──私はその17人の委員のひとりでした──の最新のレポート「OurCommon Interest(我ら共通の関心事)」では、この都市化について、HIV/AIDSの蔓延に次いで、アフリカが直面する二番目に重要な課題であるとして、特集を組んでいます。

理由ははっきりしています。

アフリカは2030年までに都市部に住む人々が51%となり、農村の大陸ではなくなってしまうと予測されているからです。

すでにアフリカの都市人口の、何と71%がスラムで暮らしています。

そこでは、長期にわたる災難や争いごとに対しては、何もなかったかのようにふるまうことが秘訣とされています。

平均寿命

世界の各都市の統計を見ると、スラムは住む場所としては、世界で最も危険の多い所であることがわかります。

その住民は犯罪と暴力の被害者であり、病気にもかかりやすいのです。

子供の死亡率は他所よりも高く、平均寿命は短く、さらにスラムはエイズの温床となっています。

ナイロビでは、都市人口の60%以上が土地の5%に住んでいますが、1000人の子供のうち150人が5歳前に亡くなります。

都市の中でもまともな地域では、それが83.9人、農村地域では113人です。

ミレニアム開発目標に基づくミレニアム宣言では、2020年までにスラム住民の少なくとも1億人の生活を向上させよう、と呼びかけました。

国際社会は、都市を環境的にも社会的にも持続可能なものにすることが緊急の課題であると認識しています。

実際、2002年に国連総会で、国連ハビタットは国連人間居住計画として格上げされ、国際社会が都市化の問題に取り組む手助けをしています。

環境改善の問題は今や優先課題と見なされ、しばらくのあいだ、国連ハビタットはハビタット・アジェンダ(行動計画)の全パートナー

──たとえば政府、地方自治体、NGO、民間セクター、地域グループ、その他UNEPなど国連機関──と共同で都市の環境持続性を向上させ、貧困層にも都市への権利を確保するよう努めてきました。

1972年のストックホルム人間環境会議で、当時インド首相だったインディラ・ガンジーは、「貧困こそが最大の環境汚染源だ」と述べました。

今日、貧困の都市への広がりがまさに現実となる中で、都市の貧困層に目を向けることがますます重要になってきました。

1992年のリオ地球サミットは、自然環境のための国際的な目標は、地域レベルでの取り組みがなされなければ達成できない、ということを初めて認識した場になりました。

ローカルアジェンダ21が始動したことで、その後、国連ハビタットとUNEPとが長期にわたる協力関係を築くことができました。

そのもとで、地方自治体の都市環境への取り組みが向上し、世界中の都市で多くの成果をあげることができたのです。

たとえば、ケニアのナクルです。ピンクのフラミンゴが生息する湖が有名ですが、その生息地が危機にさらされていました。

しかし10年にわたる自治体の努力の結果、ここはこの地域で最初に、包括的な都市開発計画をつくり上げた都市になりました。

工業化の進行を合理化して、汚染の影響を最小にしたのです。

この総合的なアプローチは、湖畔のスラムに生活する都市貧困層の生活状況を考慮するものでした。

彼らを取り込み、参加させることで、汚水や固形廃棄物の危険な拡散を減らすことができたわけです。

国連ハビタットとUNEPの協力関係は、「持続可能な都市計画(SCP)」や「アフリカの都市のための水管理計画」などの策定にも及んでいます。

「持続可能な都市計画」は世界中で実施されていますが、これまで環境計画とその実行の妨げとなっていた、古い行政の垣根を取り除くことをめざしています。

民間企業から路上の物売りまで、政府機関からNGOまで、そして中流階級層からスラム住人までといった責任を担い、

利益を享受すべきすべての人々全員と、話し合いを持つことから始めることで、この計画は都市管理のための優先事項を明確にしました。

持続可能な都市に関するプロジェクトで、ダルエスサラームのような無秩序だった都市は、活気に満ちて管理の行き届いた経済的ハブ(中核)に生まれ変わり、公営・民営間の協力のもとで運営されています。

このプロジェクトの成功を受けて、この計画は、今ではタンザニアのすべての都市と町が取り入れつつあります。

それはまた、続いてスラムの改善を手がけるための下地にもなりました。

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水の確保

「アフリカの都市のための水管理計画」は、国連ハビタットとUNEPとの比較的新しい共同プロジェクトで、前提として、都市の貧民層が清潔な水と下水設備を利用できずにいる問題が軽視されている、という見方に立っています。

ほとんどの場合、旧来の評価レポートを見ると、基本的なサービスは行き渡っていると確信を持って述べられていますが、

それは、一つのトイレを時には500人が共有していたり、給水ラインが下水溝のそばの壊れたパイプを通ったりしていることを忘れています。

国連ハビタットとUNEPは、この計画を確立するにあたって、これがアフリカの閣僚たちが採択した1997年のケープタウン宣言に沿うものと位置づけ、高まりつつあるアフリカの水の危機を広く訴えることを願ったのです。

この計画は、今ではアビジャン、アクラ、アディスアベバ、ダカール、ヨハネスブルグ、ルサカ、ナイロビで実行されています。

なおこの計画は、上記のうち5都市で、水分野の改革に貢献しています。

また3都市では、この計画に基づく環境アクションプラン(環境行動計画)が水資源の保護に役立っています。

さらに6都市では、意識向上キャンペーンの効果で、水資源管理や貧困改善への投資に対する高いレベルの政治支援が得られつつあります。

このようなプロジェクトによって、国連ハビタットはUNEPと共同でミレニアム開発目標の達成に寄与するとともに、都市の貧しい人たちが都市に対して正当な権利を与えられるようになることを願っています。

しかし、国際社会がスラムの問題を克服すべきと思うなら、もっとこの問題に注意を向けなければなりません。

実際のところ国連ハビタットは、スラムに関するミレニアム開発目標を見直すことも必要ではないかと考えています。

国際社会が2000年に、スラムのない都市についての議論の中で、ミレニアム目標7の11項で対象にしたのはスラム住民1億人という数字でしたが、

その時は、スラム人口の約10%にあたるこの数字が妥当であろうと見なしていたからです。

けれども、この控えめな数字はその後のスラム人口の増加を考慮していませんでした。国連ハビタットの報告書「The Slum Challenge」によると、スラム人口は2020年には16億人になると予測しています。

別の言い方をすると、ミレニアム開発目標を効果のあるものにするなら、スラムがこの先どう増えるのかを見越して方策をとらなければならない、と国連ハビタットは考えるものです。

国際社会は、総合的な自国の都市開発戦略のための能力を増強し、地方自治体の行動力のレベルアップをはかることで、将来の都市の発展の管理と土地利用計画の効果的運用を可能にしたり、また資源を効果的に利用するなどの、広い活動をサポートしなければなりません。

さらに重要なのは、革新的な資金調達のしくみを早急に見つけなければならないということです。

それは、手の届く価格の家屋の建設を目的とする信用のおけるプロジェクトに、家庭の貯蓄を投資できるようにすることです。

この良い例が国連ハビタットによる「 スラム 改 善 便 宜 (Slum Upgrading Facility)」で、その長期的な狙いは、民営企業の基金がスラム改善プロジェクトと貧困改善投資に回るよう、安心できる仕組みを提供することにあります。

UNEPと国連ハビタット間のような国連機関同士の連携は、ミレニアム開発目標の達成に大きく道を開くものです。

しかしながら、そこにはまだまだ革新的な協力体制が求められています。

ハビタット・アジェンダの全パートナー、つまり寄付行為者、政府、地方自治体、民営セクター、NGO、ほかの国連機関、

これらがみな一緒になって努力することで初めて、私たちの子供がスラムのない都市、持続可能でグリーンな都市に住むことができる日が来るに違いありません。

Anna Tibaijuka : 国連ハビタット事務局長

出典:Our Planet.2005.Vol.01