7つの水のイノベーション

1.ごみの地図

コレラなど水が原因の病気は、公衆衛生が不足しているため、南アジアで2番目に多い子供の死因だ。

たとえばパキスタンでは、適切な下水インフラを利用できるのは人口の18%にすぎない。若いテクノロジー起業家ファイサル・コーハンは、この問題の解決に手を貸そうと決心した。

2010年のパキスタンの大洪水のとき、彼はふつうの市民が洪水の情報をSMSで送ることができるオンライン上のプラットフォーム、Pakreport.comを作った。この情報はリアルタイムで場所が特定され、災害対策チームと公共機関の両方が利用できるようにされていた。

現在ファイサルはこのシステムを、パキスタンで4番目に大きい都市ラワルピンディの下水道インフラの状況地図を作るのに使っている。このプロジェクトは、市内の下水溝や、未処理のごみが水路に捨てられている場所に関する情報を、市民から得るのに役立つはずだ。

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ファイサルはこの公共地図が人々の意識を高め、また投資にもつながることを期待している。地図を作成し続けることで、どれくらい改良されたのか、そして水が原因の病気の事例を追い、公衆衛生と病気の関係を明らかにすることができるだろう。

ラワルピンディは、まず手始めにすぎない。ファイサルは世界中の都市で、この方法を実行しようと計画している。

2.スマート・ウォーター

これまでの水道メーターでは、数か月に 一度しか検針がされていない。また自治体の水道設備によっては、実際の使用量を測らず、平均使用量に従って料金を集めているところもある。

とても貴重な資源である水に関して、今こそ各家庭で使われている水の量を測り、消費と節約の状況を知らせる“スマートな(かしこい)”水道メーターを導入する時だ。

現在、合衆国、オーストラリア、ヨーロッパその他で、いわゆる“スマート・ウォーター・グリッド(スマート水道網)” を作るため、センサー付きの水道メーターなどの新しい技術が開発され、今ある水道インフラに取り付けられている。

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このシステムは15分間隔で水の使用量を測り、水もれの可能性を警告し、水を消費している人には 正確な使用量にもとづく水道代の請求ができる。

それによって人々はどれほどの水を使っているか気づき、生活の仕方も変わってくることが多い。それは経済にとっても良い ことだ。

市民、自治体、技術関連の会社が水を保全する真の必要性に気づいたため、 スマート・ウォーター解決策への投資は、2016年までに33億ドルも増えると予想されている。

3.どこからともなく

藻類やトウモロコシから燃料を作るというのは聞いたことがある話だ。

では、空気や水からは?

イギリスのAir Fuel Synthesis(AFS) 社の研究者たちは、空気中の二酸化炭素と、水蒸気から分離した水素を結合させ、今使っている燃料タンクに入れて使えるガソリンを生成する方法を開発した。その科学的な原理は新しくないが、方法は新しい。

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研究チームは、商業規模での生産もできるほど効率的であると期待している。しかしもちろん、エネルギーを作るにはエネルギーが必要だ。この難しい問題を解決するために、AFS社は再生可能エ ネルギー源に注目し、持続可能な燃料生産 をめざしている。

実際この燃料は、化石燃料は少ないものの、太陽光、波力、風力など再生可能エネルギー源が豊かな小さな島などに最も適していると考えられている。

AFS社は数年以内に、1日1トンのガソリンが生産できる商業規模のプラントを建設し、15年以内に精油までできる規模にすることを計画している。それまでの間は、まず今あるガソリンと混ぜて使用することになるだろう。

4.シャワーのいらないシャワー・ジェル

飲み水が少ない地域では、人々は頻繁に洗うことができない。しかし、健康でいるためには必要だ。

南アフリカの常に水不足である地域で育った高校生のルドウィク・マリシェーンは、5億人がトラコーマの危険にさらされていることを知った。トラコーマは失明の原因となるが、洗顔によって防ぐことができる病気である。

そこで、彼は水なしで使うことができる、安くて効果的なせっけんを開発しようと決心した。そしてDryBathという、皮ふをきれいにしつつ、うるおいを与える、匂いのしない生物分解性の膜を作る抗菌ジェルを作り出した。

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すでにこの製品によって水が節約でき、生活が改善されている。航空会社やホテル、軍などの法人には1箱50セントで売られていて、1箱売れると、必要としているコミュニティに1箱寄付されるしくみになっている。

5.閉じたループ(排水再利用システム)

低温殺菌法は牛乳、果汁、その他の食品を殺菌する効果がある。ではなぜ、排水を殺菌し、同時に再生可能エネル ギーを作るのに使わないのだろう?

合衆国を本拠地としているPasteurization Technology Groupの新しい廃水処理法は、電気を作り出すバイオガス・ダイジェスターの燃料として、下水から抽出した固形廃棄物を使用する。

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その電気はその場で使うか、配電網に売られている。発電で得られた余った熱によって、排水を82℃まで温めて病原菌をなくすことができる。低温殺菌された排水を熱交換器内で冷ますことで、同時に注ぎ込まれる排水を熱することができる。

塩素などの化学物質をいらなくするこの自己充足型の技術は、排水を殺菌するために通常使われるエネルギーの3%以下しか必要としない。

現在はまだ手を加え続けている段階だが、自治体だけでなく、食品加工、エネルギー企業、都市や町、それに農業への利用にも十分なほど多くの排水処理能力がある。

6.水の源

2004年12月にアジアで起きた津波、あるいは2005年のハリケーン・カトリーナなど悲劇が世界を襲ったとき、水処理の専門家であり技術者のマイケル・プリチャードは、災害の被害者たちがきれいな飲料水が配られるのをただ待っていることに驚き、とまどっていた。

この状況に応じるべく、彼はLifesaver Water ボトルと18.5リットルのLifesaver Jerry 缶を発明した。

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これには、ごみと病原菌の両方をろ過するために15ナノメートルの穴が開いた膜、ナノフィルターが使われている(最小のバクテリアの大きさは約200ナノメートルで、最小のウィルスの大きさは15ナノメートル。1ナノメートル=1メートルの2,000億分の1)。

ボトルはフィルターの交換なしに6,000リットルまで安全な飲み水を作ることができ、缶のほうは20トンも作ることができる。また、フィルターの交換が必要になると自動的に止まるようになっている。

Lifesaverの製品は世界中で災害の救援に使われ、軍隊の人々に配られ、冒険旅行をする人々に買われている。

7.危険を知らせるカナリア

水の安全性は、われわれすべてにとって 生死にかかわる問題だが、これまでは水質を検査する器具は値段が高く、時間がかかり、また専門的な知識が必要とされていた。

しかし今、値段が安くて使いやすい器具が開発された。これは結果がすぐに出て、携帯電話のネットワークを通じてGPS付きの情報が行政に警告を発するので、被害の拡大を防ぐのに役立っている。

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インド系アメリカ人Sonaar Luthraによって開発された「ウォーターカナリア」は、オープンソースの発明品で、水に光を通すスペクトル分析によって、汚染物質、栄養素汚染、揮発性物質があるかどうかを判断して、赤か緑の光で安全性のレベルを示す。

このシステムは継続的な監視にも、災害後の状況でも使用でき、水の安全管理の専門家に危険を知らせてくれる。

 

TUNZA日本語版 2013 Vol.2(通巻32号)