驚きの穀類

食べられる植物は5万種以上知られているが、そのうちわずか3種、トウモロコシ、米、小麦が、世界の3分の2近くの人々の主食となっている。

しかし今、いくつか古代の穀物が再び登場してきている。近い将来、3種の主要穀物にこれらが取って代わるなどということはなさそうだが、さまざまな料理に利用でき、健康を促す効果があり、どんな環境でも元気に育つのだ。

ここではそんな古代の穀物を紹介します。一度お試しあれ!

アマランサス

中南米を原産とするアマランサスは、 アステカ族にとっては神聖な作物だっ た。

農村の儀式では、アマランサスの種子とハチミツで作った偶像で神々をかたどり、 それを礼拝したあと、壊して食べていた。これがキリスト教の聖体拝領によく似てい たので、スペインの征服者たちは、儀式だけでなくアマランサスの栽培も禁止しようとした。

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アマランサスは8,000年前ころから栽培されるようになったと思われる。成長が早く、干ばつや霜に強い観葉植物で、鮮やかな色の花をつける。種子は非常に栄養分が 高く、葉はアフリカ、アジア、ロシアで重要な栄養源となっている。

アマランサスは高濃度 のタンパク質と、骨の健康に重要であるカルシウムを小麦の4倍も含んでいる。南アメリカでは、この葉をホウレンソウと一緒に調理し、種子は米のように炊いたり朝食のおかゆにしたりする。

アマランサスの粉末も、パンやパンケーキ、その他の焼き菓子に用いることができる。メキシコでは、炒ったアマランサスとハチミツを混ぜて、どくろ型の菓子を作り、亡くなった友だちや家族を思い出す、死者の日(Dí a de los Muertos)のごちそうにするという古代の習慣が今も残っている。

キノア

アンデス地方原産でアカザの一種であるキノアはインカの人々が主食にしていたもので、今でも食べられている。

高地の水はけのよい砂地に生える一年草で、雨の少ない冷涼な条件や、やせた土地でも育つ、たくましい作物である。

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キノアは米やクスクスのように調理し、ベジタリアンにとっては完全タンパク質をとれる、人体に必要なすべてのアミノ酸が含まれている希少な食品である。そのためちょっとした驚きの食材となっており、近年その人気はうなぎのぼりである。

なにしろ、FAOが 2013年を「キノア国際年」に指定し、食料を確保する上でキノアの生物多様性と栄養価が果たす役割を評価することにしたくらいなのだ。

合衆国やヨーロッパの農家は今、同じような高地でいろいろな品種のキノアを栽培し、人間の食用と動物の飼料の両方に使用することができるかどうか調査している。また航空宇宙局のNASAも、キノアを火星へ行く宇宙飛行士の食料源として検討している。

スペルト

スペルトは小麦の仲間で、古代のヨーロッパや中東で栽培されていたが、あまり収穫量が多くないのと、外皮を脱穀しにくいことから人気が低下していた。

今では機械の力でスペルトを商品に加工することができ、ぬかや胚芽のついた種子には、現代の小麦より多くの栄養が含まれている。繊維質が多いが水溶性も高いため、小麦より消化しやすく、ビタミンB複合体も含まれている。

調理したスペルトのカップ1杯のカロリーは米とほぼ同じだが、タンパク質や鉄分は米の2倍含まれている。マグネシウムも含まれているため、2型糖尿病のリスクを減らすこともできる。

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農作物としてはとてもたくましく、土壌の栄養素をほとんど奪わず、霜や病気に強く、やせた土でも肥料なしでよく育つ。また分厚い外皮が汚染物質や虫から実を守っている。

今では健康食品店の人気商品で、小麦の代わりに使ってパンを焼いたり、ナッツのような種子を調理して米の代わりにしたり、サラダのおもな材料として親しまれている。

ミレット

ミレットは人間が最も古くから栽培していた穀物の一つと考えられており、その歴史は7,000 年も前の古代のアジアやアフリカにさかのぼる。これらの地域では今でもミレットが生えている。

スイスには石器時代の栽培を示す証拠があり、北欧では鉄器時代から食べられていた。もちろん中世には ヨーロッパの主要な穀物だった。

ミレットは数種類の穀物の小粒の種子のことで、最も人気があるのはトウジンビエ(Pennisetum glaucum)で、暑くて乾燥した気候や、やせた土地でも非常にたくましく育つ。

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今ではほとんどがアフリカやインドで栽培されているが、世界中で多くの料理に使われており、たとえば南アジアではそれでチャパティやロティなどの平たいパンを作る。

柔らかくクリームのような食感を持ち、消化しやすく、小麦よりカロリーが高く、マグネシウムやリンなどの心臓病予防になる栄養素が多く含まれている。研究によると、マグネシウムは2型糖尿病予防にも効果的で、血糖値の安定的な上昇を促すことが明らかになっている。

テフ

テフとは“見失う”という意味だ。その種子が直径1ミリと、とても小さいことからそう呼ばれている。だが1キログラムもあれば、1ヘクタールの畑にたっぷり種子をまくことができ、これは小麦に比べて100 分の1程度である。また、調理時間も短くてすむ。

スズメガヤ属の一種で、育つ環境は海抜ゼロ地域から高地まで、あるいは乾燥地から湿地まで実に多様であり、病気にも強い。

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6,000 年前にエチオピアで初めて栽培されたと考えられており、「インジェラ」というスポンジのようなパンにして、エチオピアやエリトリアで食用にされている。

栄養価が高いため、今ではその名が知れわたるようになった。キノアと同じほど多くのタンパク質を含み、あらゆる穀物の中で最もカルシウムの含まれる量が多く、ビタミンCも含 んでいる。

現在、テフはオーストラリア、カナダ、インド、合衆国で栽培され、パン、パンケーキやその他の製品に使われ、他の国々で 栽培する可能性についても調査が進んでいる。
 

TUNZA日本語版 2013 Vol.1(通巻31号)