地域レベルで考えて

シーラ・パテル
デービッド・サタスウェイト
町や市のレベルで、ミレニアム開発目標(MDGs)を達成するためのコミュニティ主導の解決策を提唱する。

アフリカ、アジア、ラテンアメリカの都市人口は、世界の他の地域全体の約3倍です。

国連の予測によると、2020年までに世界の人口で一番増加するのは都市部であり、そのほとんどがこれら3大陸と予想されています。

世界中の貧困者の大部分は、充分な収入、満足な住宅を持たず、基本的なサービスを受けていない都市部住民で、その比率はさらに上がっています。

都市部こそが、ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けての出発点なのです。

政府や国際機関は、貧困はおもに地方での現象であると、いつまで信じ続けるのでしょう?

地方の貧しい人々がよりよい生活への望みをかけて向かう先は、実は都市部なのです。

50年にもわたって開発協力を続けてきたというのに、低・中所得国の都市人口の多数のニーズへの取り組みに、どうして失敗してきたのでしょう?

もっともらしい説明のひとつは、ほとんどの開発主導者たちが、都市の貧困層と(可能ならその地域の自治体とも)話し合い、協力し合って、その地域に合った解決策を編み出すということをしてこなかったというものです。

そもそも、これらの貧困層の人々のニーズこそが、開発主導者たちにとっても、資金を提供するすべての機関に対しても、その開発を正当化する根拠となるのです。

そして、その根拠をふまえて、ほとんどの国際機関が参加支持を表明するのです。

この最も基本的な前提は、単に標榜されていただけで、実際に認識されていたかどうかさえ疑わしいのです。

MDGsをどのように達成するかという議論のほとんどが、援助、債務救済、国家貧困削減政策の大幅な強化に焦点をあてています。

しかしその議論は、達成を左右するのは当の地域での「変化」だということを無視しているのです。

もしMDGsを達成しようとするのであれば、何億ものスラム住民の水、衛生設備、医療、学校などについての解決されていないニーズに取り組まなければなりません。

これら何億ものスラム住民は、住むための土地(あるいは、彼らがすでに占有している土地の保有権)、社会施設やサービス(水や衛生設備を含む)、工事や住宅改善を支えるための資金を持てるように、地域の当局にその対応を改めさせなければなりません。

スラム住民がこうむる損失の多くが、当局の人々が彼らと一緒の仕事を拒むことや、または上部組織からその許可が出ないことから生じた結果なのです。

ミレニアムプロジェクト

私たち2人が参加した「スラム住民の生活改善に関するミレニアムプロジェクト特別対策本部」での議論では、コミュニティ主体の解決策の重要性が強調され、

その解決策を支援するために、政府と国際機関が何をしなくてはいけないかということが議論されました。

私たちは、国際的支援を大幅に増やすことの必要性よりも、政府や国際機関が都市の貧しい人々のグループとの協同作業のしかたを変える必要があることに、より比重を置いてみました。

政府と国際機関は、スラム住民に対して説明責任を持ち、透明性を上げなくてはなりません。

また、肝心の都市貧困層のグループがしっかりした代表者を持ち、組織化されて、ニーズや優先順位を明確にできない限り、政府が主導する、

あるいは国際機関が指揮する、または専門家による問題の解決策というものをあまりあてにしてはいけません。

ではどうすれば、地方政府機関は貧困層の立場に立てるのでしょうか?

せめて少しでも反貧困層がなくなるのでしょうか?

別の言い方をすれば、ニーズが満たされない人々と、地方団体、特に市や地方政府との関係を、どうしたら変えることができるでしょうか?

もちろん、政府や国際機関からの他の変革も必要ですが、最終的にそれらが効果的なものになるかどうかは、そうした変革によって地方自治体やその他の地方組織が、もっと地方のニーズを満たせるようになるか、

さらにニーズが満たされていない人々に対し、もっと責任を持てるようになるかにかかっています。

地方政府は、すべてのニーズに対応はしていませんし、また全部に対応すべきでもありません。

しかしながら地方政府は、その地域の流通市場の動きには大きな影響力を持っています。

そこには、土地、住宅、水、そして多くの場合、建築用材や、信用供与のような低所得層にとって特に重要なものも含まれています。

また地方政府は、地域のNGO団体が効果を上げられるかどうか、また都市部貧困者層へ責任ある対応をするかどうかにも大きな影響を与えることができるのです。

きっかけをつくる

スラム住民と掘立て小屋の生活者がつくった組織は、アジアとアフリカの約22カ国で活動しています。

開発してもらうのを待つのではなく、コミュニティグループ(とりわけ女性)が自ら行動を起こし、協力しあって、自分たちだけでは達成できない優先課題に地方自治体を関与させるために、必要なきっかけや場をつくり上げています。

都市部のスラム住民、そして掘立て小屋生活者のコミュニティ団体と連合のネットワークである「Shack Dwellers International 」(SDI)は、

過去10年間にわたって土地、住宅、衛生設備や水についての交渉において、コミュニティを着々とサポートし、市や政府組織とともに変化をもたらすための対話を始める地域ネットワークをつくりました。

コミュニティはお互い助け合いながら、新しい技術を学び、自信をつけ、かつては自分たちにできるなどとは想像もしなかった課題解決のために突き進んでいます。

インドのムンバイ(旧ボンベイ)では、市が工事費用を負担し、コミュニティがトイレを設計・建設・維持するプログラムを実行して、何100万もの人々が、これまでなかった下水処理設備を保障されました。

南アフリカでは、コミュニティ連合はダーバン市と一緒に、すべてのスラム街の状況を改善する野心的なプログラムに取り組んでいます。

スラム住民と掘立て小屋の生活者がつくった組織は、アジアとアフリカの約22カ国で活動しています。

また彼らは、使用されていない教会の土地を探し、土地を必要としているコミュニティに受け渡すため、南アフリカのメソジスト教会とも協力しています。

そしてその過程において、州が所有する未使用地を譲渡するペースが早まるよう期待しています。

ナイロビの鉄道のそばにあるスラムが取り壊される際、連合はケニアの鉄道会社と政府に、ムンバイを訪れることを提案しました。

ムンバイでは、線路沿いの1万5千を超える住居が、コミュニティと州と鉄道会社による共同事業によって移転されました。

タイ政府の独自組織である「共同組織開発機構」(CODI)は、200市以上にわたる2,000を超えるコミュニティが、住居やその他の貧困問題に取り組むために地方自治体と協力して進めていくよう手助けをしています。

開発の時のスローガン

地方分権は、開発において繰り返し使われる言葉となり、ほとんどの解決策が実際に地方レベルで最も多く実行されるようになりました。

緊急事態でも、継続的な開発過程でも、強力な地域の関係者が、より多くの持続可能な開発の解決策を生み出しています。

第一段階での成功は、次の活動と計画の土台となります。

しかし、このために決定的なのは、資金を提供し、実行力を高め、関係者のあいだにしばしば存在する軋轢と、それぞれが持つ優先事項との違いを調整する強力なセンターが必要だということです。

また地方分権は、強力な利害関係者や、透明性があり正当な仲裁の仕組みや、適切な資金を持たずに、しばしば実施されることがあります。

これはまるで、分権を「責任丸投げ」の手段としているようなもので、

本来は、地方の関係者が一見異なる当面の目標を持ちながら、その能力と資源をともに結集して、長期的に広く受け入れられる目標を追求できるようにすることが分権の趣旨のはずです。

国際的な機関や国の政府は、知識・戦略・資源の地方への委譲を促進するという重要な役割を担っており、

そうした委譲の結果、資源をめぐる地方の意見や利益などの衝突を、だれもが受け入れられる解決策へと転換させることなどが可能となるのです。

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Sheela Patel :
インドの「地域活性化センター設置促進協会」の役員であり、「スラム居住者団体の連合組織」や「路上生活者の女性たちの協同組合」と協力して活動している。
David Satterthwaite :
国際環境開発研究所で、『Environment and Urbanization (環境と都市化) 』の編集をしている。

出典:Our Planet.2005.Vol.01