デヴィッド・デ・ロスチャイルド(DAVID DE ROTHSCHILD)
アドベンチャー・エコロジー創設者
私たちが廃棄するプラスチックは増える一方で、それが自然界に破壊的な影響を及ぼしています。これまでに製造されたプラスチックは、焼却されたごく一部を除き、一つ一つの分子が今なお環境中に存在しています。最も明らかで衝撃的なことは、このプラスチック廃棄物が現在、地球のあちこちの海に浮かんだり沈んだりして散らばっているということです。
私が現状を初めて知ったのは2006年、UNEPが発行した『Ecosystems and Biodiversity in Deep Waters and HighSeas(=深海および公海における生態系と生物多様性)』に出会った時です。この報告書では、海面または海中には1平方マイル(=約2.6平方キロ)につき46,000個の海洋ゴミが浮遊しており、一部の地域では特に深刻な問題であると指摘していました。最も悪名高いのは――“東太平洋ゴミベルト(Eastern Garbage Patch)”と呼ばれる――テキサ ス州の2倍もの大きさの北太平洋に渦巻く海流で、研究者たちは1ポンド(=約 454グラム)のプランクトンに対して6ポンド(=約2.7キログラム)のプラスチッ クゴミが浮遊していることを発見しました。巨大な渦巻きは他にも4カ所あり、そ れらのゴミをすべて合わせると、地球の表面の約40%が覆われてしまいます。
海洋ゴミの90 ~ 95%にも上るプラスチックは、有機化合物とは異なり、生物分解しません。プラスチックは酵素によって分解されず、自然の掟を文字どおり台無しにしてしまいます。プラスチックが人間にとって非常に便利なのは耐久性が高いからですが、その耐久性こそが、世界中のあらゆる生態系の生物のライフサイクルに甚大な害を与え、魚類や海洋哺乳類、鳥類に二重の悪影響を及ぼしているのです。
第一に、現在は絶滅の危機にさらされている雄大なアホウドリなどが、プラスチックを食べてしまうことです。最も被害が大きいのは、クレ環礁やハワイ・オアフ島に巣を作るコアホウドリです。ハワイ大学の研究者、リンゼイ・ヤング氏は「クレ環礁の鳥類の腹からは、小さなプラスチックの玩具が非常にたくさん見つかり……キリスト降誕のミニチュアセットが完成するほどだった」と述べています。毎年ミッドウェー島で生まれる50万羽のアホウドリのひなのほぼ半数は、親鳥が餌として与えるプラスチックを食べて死んでいると思われます。胃の中に306個ものプラスチック片が入っていたひな鳥も見つかっています。
第二の大きな問題は有害物質の移動で、こちらのほうがはるかに心配です。プラスチックは外洋において光分解し、さらに簡単な化合物に分解し始めますが、決してなくなることはありません。その結果生じた細かい粒状物質はナードルまたは “人魚の涙”と呼ばれ、PCB(ポリ塩化ビフェニル)やDDT(ジクロロジフェルニトリクロロエタン)、さらには海水で薄められた大量の除草剤や農薬などの脂溶 性化合物を吸収します。厄介なことに、プラスチックは油との親和性も高いのです。
これらの化学物質のごく一部は、フィルターフィーダー(=濾過摂食動物)に取り込まれ、食物連鎖を上って、魚のフライとなって食卓に到達します。ですから世 界中で、子供も大人も知らない間に低濃度の有害物質にさらされているのです。プラスチックなどの海洋ゴミは、浜辺――特に渦巻き状のゴミ海域の通り道となっているところ――をも覆い尽くします。海流はゴミを渦巻きに吸い込むだけでなく、放出もするのです。たとえば、ハワイ諸島の19の島々には山のようなゴミが流れつきますが、中には何十年も前のゴミもあります。廃棄物が5~10フィート(=約1.5 ~ 3メートル)も積もった浜辺もあれば、細粒状の“プラスチック砂”に覆い尽くされた浜辺もあります。
合衆国政府は2006年10月、ゴミの増加を抑えようと、「北西ハワイ諸島海洋国家遺産」を指定しました。議会はゴミの撤去費用の増額法案を可決し、いくつかの政府機関に清掃活動の拡大を命じました。
しかし、この問題を研究している人々 は、全体的に実行可能な解決策がないことを指摘しています。海底のゴミさら いは非現実的で費用もかかるうえ、結局のところプランクトンやその他の海洋生物に害を与えることになるでしょう。北太平洋の渦巻きだけを浄化するとしても、大陸沿いの広大な海域を、水深100フィート(=約30メートル)まで清掃しなければならないでしょう。海洋ゴミの優に80%の原因となっている陸上の廃棄物を処理するほうが、実現の可能性が高く、はるかに効果的です。
ただし、必ずしもこうしなければならないわけではありません。プラスチックを廃棄物ではなく価値ある資源と考えるよう認識を変えられれば、環境への被害を抑え、場合によっては改善することも可能です。この課題への取り組みは冒険と言えましょう。――昨年、12,500本の使用済みペットボトルで作った船、プラスティキ号で太平洋を横断したのと同じように、まったく向こう見ずな冒険かもしれません。
プラスティキ号の探検で目指したのは、単に目的地だけではありませんでした。私たちの航海や視点は、賢明な考え方の基盤を作り――皆で知恵を持ち寄ることが最も賢明だと誰しもが認めるような環境を作り出したのです。私たちは、一人ひとりの行動が反応を生むという総体的システムの一員としての自らの役割を認識したオピニオンリーダー、設計者、技術者、科学者のコミュニティを作ろうと努力し、その結果、人間によって増え続けている破壊的 な影響について、じっくり考えてみる必要があることを悟りました。
私たちが共に力を合わせることこそ、前へ進み、海洋や地球に必要な解決策を生み出す唯一の方法です。そうすれば、不必要に殺された無数の海鳥や10万頭もの海洋哺乳類に、またどうして誰も何もしないのかと問いかけている子供たちに、申し訳ない気持ちを抱かずにすむようになります。
プラスチックの代替品を見つけるよう企業や地域社会に働きかけようという人もいるでしょう。あるいは、各国政府にリサイクル計画を拡充させ、バイオプラスチックを市場に浸透させようという人もいるかもしれません。
しかしプラスティキ号は、可能であれば廃棄物に対する考え方を180度転換させ、廃棄物を再び生活に組み込むことを目指しました。それにはまず、いわゆる “アウェー”という場所はないのだと認識し、知的好奇心を養って、日常的な物を賢く設計・使用する方法を考案することに向ける必要があります。私たちは、愚かな考えの問題点を象徴しているペットボトルを取り上げ、それが効果的で有用な資源になり得ることを示し、希望の土台へと変貌させたのです。
プラスティキ号の使命は、さまざまな問題を発信するだけでなく、解決策を明示し、それを実行することでした。ペットボトルで船が作れるなら、そしてその船を見て、世界のあちこちで人々が想像力を結集することができるなら、少しばかりの好奇心と想像力と新たなものを取り入れる時 間さえあれば、そこには無限の可能性が 広がっています。もしかしたらいつか、単に海を救うだけではなく、さらに多くを夢見ることのできる日が来るかもしれません。
Our Planet 2011 Vol.2(通巻23号)