失われた環

1976年に発見されて以来、エボラはアフリカの熱帯地域で20回以上も人間を襲ってきた。

科学者たちは、エボラは野生生物の肉の加工や摂取によって、野生生物から人間へ飛び火したのだと考えている――これは人間の健康と環境には相互関係があることを改めて思い出させてくれる、厳しい現実である。

大型類人猿保全計画(GRASP)は、エボラを取り巻く諸問題を非常に深刻に受け止めている。

GRASPは各国政府、環境保全団体、研究機関、国連機関、民間企業など98のパートナーが参加するユニークな連合体で、人獣共通感染症を6つの優先事項のひとつに掲げて重点的に取り組んでいる。

類人猿はエボラに非常に感染しやすいため、GRASP科学委員会をはじめとするいくつかのパートナーは、現在あるいは将来、類人猿の個体群がエボラの大流行の影響を受けることになった場合に備えて、さまざまな手段や資源を整えておく手助けをしている。

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人間もエボラに感染しやすい。

過去に中央ア フリカと西アフリカで起きた大流行は、これらの地域のチンパンジーやゴリラと人間との接触に、明らかに関係があることを示していた。

科学者たちの調査により、過去25年間にガボンとコンゴ共和国の人々の間で起きた8回のエボラの大流行はいずれも、ウイルスに感染した類人猿の肉を扱う密猟者によって引き起こされたことが証明されている。

そのため、人間への疾病伝播を予測し、できれば防止するには、類人猿の個体群を監視することが重要になる。

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つい最近、西アフリカで起きた大流行では、1万人以上の犠牲者が出ており、その緊急性が浮き彫りになっている。

この危機に対応するため、GRASPはシーヴ・アイナ・レーンデルツ博士と、類人猿のエボラと人間のエボラの関係の戦 略的な見直しを行う契約を交わした。

GRASP科学委員会の主要な疫学者らと協力しつつ、レーンデルツ博士は、人口の増加によって、以前は人が住んでいなかった森林へ人間が住居を拡張していった後、人間と類人猿との接触の増加がどのような役割を果たしたのかを調査した。

最初の調査結果によると、類人猿に対するエボラの影響を示したマップがあれば、今後の大発生を予測するのに役立ち、公衆衛生当局者にヒト曝露の可能性に備える時間的余裕を与えられるという。

まもなく科学雑誌に発表されるレーンデルツ博士の調査結果は、GRASPのエボラ政策作成にも役立ちそうである。

一方、GRASPは情報画像を作成し、類人猿を殺したり食べたりすることの危険性を各コミュニティに警告している。

2015年には、現在、人間と類人猿を脅かしている人獣共通感染症の宿主について、報告書を作成することが検討されている。

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種から種へ飛び火することが明らかとなった疾病はエボラだけではないため、コミュニティの人々の健康が、生物多様性のホットスポットを保全する重要な土台となる。

「コンサベーショ ン・スルー・パブリック・ヘルス」(www.ctph. org)や「ゴリラ・ドクターズ」(www.gorilladoctors.org)などのGRASPのパートナーは、コミュニティの疾病治療と類人猿個体数のモニタリングの基準を制定した。

さらに、マウンテンゴリラを見に来る観光客の安全手順まで策定している。

これらのプログラムは西アフリカのコミュニティで役立っているが、西アフリカや中央アフリカのエボラ重点警戒地域では、さらに多くの取り組みが必要である。

 

 

Our Planet 2015 Vol.3(通巻40号)