新しい食べ方

ツゥイ・フェンキンが16歳だった時、彼女は上海から地方の村に送り込まれ、コミューンで野菜を育てることになりました。毎年、地元政府は新年を卵餃子で祝えるよう、彼女の実家に凍らせた生卵の塊を送っていました。

7年間、彼女の食事に肉は出ませんでした。50代になるまで、スーパーの買い出しも料理もしたことがありませんでした。その頃と比べ、中国は2億人を食糧不足から救い上げました。地方の給食はすべて4人民元(0.68ドル)の補助金を受けています。

2009年までの30年の間に、中国の都市部へ進出する中流階級の可処分所得は9倍以上に増え、全人口のうち貧困層が占める割合は、1981年の63%から2004年には10%へ下降しました。

これは驚くべき成果ですが、大きいマイナス面もあるのです。親世代の人々は皆、自分の子供に料理を教えることを放棄したため、子供たちはインスタント食品や外食に頼るように育ちました。

スターバックスは中国を、お茶を飲む国から甘いコーヒーに夢中な国に変え、フランチャイズ店で一番多いのはケンタッキーフライドチキンです。

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出典:食べモグ

現在、ローレンス・チャンの両親は日常的にマクドナルドで彼に食事をもてなします。彼の母親は、多国籍企業は食の安全に関して厳しく規制されているはずなので、ハンバーガーやフライドチキンは健康的なはずだと信じています。ぽっちゃり体型の“小さな皇帝”(大事な一人息子)は、何を食べたいかを決め、友達の家へお呼ばれされるために、友達にあげる高価なおもちゃをおねだりしています。外でスポーツをして走り回るよりも、家の中で勉強をしたりテレビゲームをしたりして過ごすほうが好きだと言います。世界の5人に1人が中国に住んでいるとはいえ、糖尿病患者の3人に1人は中国人なのです。

1980年には、中国の成人のうち糖尿病患者は1%未満でしたが、今では10%以上です。2011年には7~18歳の20%は太りすぎか肥満で、15%は糖尿病予備軍でした。中国糖尿病学会のシュウ・シャンロンは、「中国での糖尿病患者の急増は健康だけでなく、経済にとっても脅威です。 国の医療制度を破綻させる可能性があります。中国は糖尿病の治療から予防へと重点分野を移さなければなりません」と述べています。

しかし、中国には正式な食育プログラムがありません。中国の栄養・食品衛生研究所は「中国には国内に1万人強の栄養士がいますが、人口300人に対し栄養士1人が必要という国際基準に基づくと、最低でもあと400万人必要となります」と述べています。

中国の食生活と健康の危機は、地球の危機でもあります。輸入食品への旺盛な食欲は世界中の農業資源に打撃を与えます。ニュージーランドは牛乳や粉ミルクを製造するために、牧草地を酪農場へと変えています。

私たちの食料システムは、世界の温室効果ガス排出量の最大30%に対し責任があります。2025年までに8億人が中国の中流階級に参入し、肉片の入った炒めものを分け合う食事から、欧米風の各自が大きなステーキを食べる食事に変わりつつあります。

これはメタン排出、森林減少、すでに枯渇しつつある中国の水源、1枚の厚切り肉ではなく何トンものたくさんの野菜を生産できる土地にとっては、悪い知らせです。

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大きな変化を起こす一歩は、学校の1年生のカリキュラムから始まります。中国疾病予防対策センターの調査によると、小学生の食生活は給食と家での料理で管理されています。中学生の食生活は対照的に、友人たちに大きく影響され、高校生になる頃には食の好みはほとんどでき上がっています。

もし劇的な変化を起こしたいのであれば、小学校の児童9,400万人から始めなければなりません。私が所属する非営利組織の「クリーンエネルギーに関する米中共同協力(JUCCCE)」による「A New Way to Eat(=新しい食べ方)」というイニシアティブはまさに、その栄養教育の不足を埋めようとしています。課題は、どうやって集中力が持続しない子供たちの興味を引き、多くの大人もまだ認識していない難しい持続可能な食生活の考え方を説明するかという点です。

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私たちのイニシアティブは“playducation(遊びながら学ぶ)”という手法を用いて、「生物多様性」、「微量栄養素」、「高血糖」といった単語を「毎日虹色を食べよう」、「食べ物のもとは何」、「ベタベタお砂糖」といった楽しいテーマに言い換えています。子供たちは飛び回り、早い者勝ちゲームをし、目隠しもします。そしてもちろん、たくさんのシールもあります。

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カリキュラムは、3つのシンプルなフード・ヒーロー・ルールに則っています。

  1. 食べ物は心と体の燃料
  2. 良質の食事と運動で燃料アップ
  3. より健康的な食事で地球を守ることができる

複雑な食生ピラミッドとカロリーの考え方は、よりシンプルな“まずこれを食べよう”の表で、子供たちと地球の双方にとって健康的な食べ方を一緒に示しています。イニシアティブのパイロット活動を望むリクエストは、また発展途上とはいえ、圧倒的な力を見せつけています。子供たち、両親、学校の教師、課外教育施設、定期購読教育誌、母子グループ、レストラン、企業の従業員活性化プログラムから熱烈な反響を得ています。

もちろん、中国に世界の小学生の15%がいるとはいえ、単独で食生活と地球の課題に立ち向かっているわけではありません。私たちはEATフォーラムと手を組んで、いずれはプログラムを地球規模に拡大できるよう目指しており、地域パートナーが地元の言葉や味覚に適合させています。

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今日の子供たちは、親世代よりも長生きしないと予想されている初めての世代です。また、彼らは危険な気候変動に初めてさらされる世代でもあります。食べ方を変えることを学べば、両方の危機に同時に、そして楽しみながら取り組むことができるのです。
 

Our Planet日本語版 2015 Vol.3(通巻40号)