この瞬間を逃さずに

過去10年にわたり、その多くが小島嶼開発途上国(SIDS)に位置している世界で最も壮大で美しい場所のうち数カ所が、熱帯暴風雨、サイクロン、鉄砲水、高潮によって大打撃を受けてきました。家々は流され、多くの家族 が行き場をなくし、人々の暮らしは失われました。これらの島々の住民の多くが、海面上昇や海岸浸食、異常気象に翻弄され、自分たちの居住地、コミュニティ、文化が永久に失われてしまうのではないかという懸念を抱いています。

この種の荒廃は、ますます頻繁に起こるようになっていますが、最近ジョン・ケリー米国務長官が“大量破壊兵器”と呼んだ現象、すなわち歯止めの利かない気候変動の影響を物語っています。

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どんな男性も女性も、国も地域も、気候変動の影響を免れることはできませんが、特に危険にさらされているのがSIDSです。存在を脅かすこの危険がなくとも、SIDSは特に影響を受けやすい地域です。

地理的な遠隔性、物理的な狭さ、海面上昇に影響されやすい比較的薄い淡水レンズ、熱帯サイクロンや高潮や干ばつに対する脆弱性の高さ、人的・財政的資源の不足、多額の債務、限りある天然資源などがその理由です。予期される気候変動の悪影響は、ことさら非道にも脆弱性をさらに高めるばかりです。

SIDSの排出量は世界全体に占める割合が非常に少ないこと、SIDSには適応のための能力と選択肢が乏しいこと、そして適応には莫大なコストがかかることを考えれば、なお一層過酷なことに思われます。

科学的な証拠の増加と長年の交渉にもかかわらず、国際社会はいまだ世界の排出量を削減し、気候変動の長期の影響に対処するための果敢な行動を起こさずにいます。

SIDSだけでなく、地球全体の持続可能な未来を確実に実現するために、私たちは国際社会として、2015年にパリで開かれる予定の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議において、2050年までに世界をゼロ・エミッションに至る道に乗せるという、気候変動に関する法的拘束力のある合意に達する必要があります。

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このような中で、SIDSは地球の気温上昇を産業革命前の気温から摂氏2度以内、理想的には摂氏1.5度以内に抑えるために、野心的な緩和の取り組みを伴う気候変動レジームを提唱してきました。この水準以下に気温上昇を抑えるには、大気中の温室効果ガスの濃度を二酸化炭素換算で350ppm以下に制限しなくてはなりません。これは目下、安全な大気中の二酸化炭素濃度と推定される上限です。

気候変動問題に対処するための必須要件として、SIDSは、資金調達、科学技術、能力開発資源などの具体的な適応策の必要性を訴えてきました。また、気候変動の短期・長期の影響に対処できるようにする強力な資金力のある効果的な損失と損害のメカニズムについて議論することの重要性についても主張してきました。

SIDSは国と地域のレベルで、エネルギー、水、観光、農業といった、SIDSの経済と気候変動に対する脆弱性にとって重要な部門への取り組みに重点を置くべきだと主張してきました。また、SIDSは規模が小さく人口が少ないため、グリーンで持続可能なプロジェクトの開拓に理想的な環境であり、これらのプロジェクトの規模を拡大し他の地域で再現することができると強調してきました。

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SIDSは独自の生物多様性と文化遺産を持っています。そして大半の島国にとって、観光は主要な経済活動であり、雇用と所得を生み出し、GDPのかなりの割合を占めています。しかし観光はまた、限られた脆弱な天然資源に対する環境ストレスの原因にもなり得ます。

インフラが海岸線沿いにあることが多いため、観光は特に気候変動の影響を受けやすい産業でしょう。リスク管理戦略を含む持続可能な観光モデルの開発は、この重要な経済部門を維持しつつ、環境を守るために不可欠でしょう。

持続可能なエネルギー源を開発して、SIDSの化石燃料への依存を減らすこともまた、もう一つの重要な課題です。持続可能なエネルギーのための政策と戦略は、グリーンな低炭素経済への移行を助けるでしょう。財源の拡大、能力開発、科学技術が、持続可能なエネルギー部門の開発支援に必要となるでしょう。

気候変動の緩和と適応は、分野を超えて取り上げることがぜひとも必要です。気候変動と開発は本来関連し合っていること、また気候変動の破壊力は脅威を何倍にも増幅させることを認識するのが、国と地域の適切な開発と貧困緩和政策を進めるための第一段階です。これらの政策は、気候変動のさまざまな側面に対処し、また開発計画にリスク管理のアプローチを用います。この点で、健全な政策立案と効果的な意思決定のための情報を提供する、SIDS国内の調査とデータシステムへの多額の投資が必要になるでしょう。

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SIDSの多くの住民はまた、地域の協力と連携が有益な機会となることにも十分に気がついています。それはとりわけ、次のようなことを成し遂げるためです。

すなわち、資源を共同負担することで交渉での立場を強化すること、能力開発イニシアティブ、調査および開発のためのクリティカル・マスを設定すること、民間部門やその他の非伝統的な資金源から緩和・適応のための資金を集めること、気候変動への適応・緩和 のベストプラクティスを共有すること、そして気候変動に対処するうえで、地域の専門機関の回答を調整することです。

気候変動の影響による難問がますます増加する中、今年は、それに対処するためのまたとない展望が期待できる年です。SIDSと、彼らが抱える課題や脆弱性、そして他国と比べた場合の利点と機会には、国際社会の関心が向けられています。

私たちは現在、「国際小島嶼開発途上国年」を迎えています。これは、あるグループの国々に対して設定された初めての国際年であり、SIDSの認知度を高めるためのさまざまな活動が期待されています。

サモアでの国連小島嶼開発途上国会議で、SIDSは民間部門、先進国、また開発パートナーとの新しい革新的な協力関係を築くことができるでしょう。この会議はまた、「ポスト2015年開発アジェンダ」、すなわち今後数十年の地球の開発の指針となる枠組みにおいてSIDSが優先課題であることを明らかにする非常に良い機会です。目前の問題の緊急性を考えれば、SIDSはこれらの機会を、未来を守る具体的な行動を明確にするために利用しなければなりません。
 

Our Planet日本語版 2014 Vol.4(通巻37号)