変わる海|シルビア・アール

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「歴史上、いつだって」と、シルビア・アールは語る。

「海洋は損なわれるには大きすぎると思われていて、人々はその限界を理解せずに自然から奪い続けてきました」。

しかし、 この海洋学者が語るには今、彼女自身が目にしてきた「海面と海中の両方で」起きている変化によって、それが危険なほど間違った前提であったことが明らかになっているのだ。

シルビア・アール:ミッション・ブルー 創設者、 ナショナルジオグラフィック 協会付き研究者

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出典:WEB-NILE

そのことを自信を持って言える者がいるとすれば、それは彼女だ。

伝説的な深海探検家であり海洋大使でもある彼女は、これまでに100回以上も海洋の調査を行い、190件以上の科学 出版物や一般向けの出版物を執筆し、80カ国以上で講演し、国内外で100個以上の賞を受賞している。

そして、7,000時間以上もの時間を海中での調査に費やしているのだ。

“Her Deepness”(「妃殿下」を意味する“Her Highness”をもじったもの)とザ・ニューヨーカー誌やニューヨークタイムズ紙から称されているアールは、米国海洋大気庁の主任研究員であり、現在はナショナルジオグラフィック協会付き研究員、国際自然保護連合(IUCN)のパトロンでもある。

「海は地球にとって最も重要です」と彼女は語る。

「地球上のほとんどの生命が海にいます。これらをどのように扱うかが、すべての自然システムに影響してきます。

大気中の酸素の半分以上は、海の生物相が生み出しています。

私たちは(幸運にも)海洋がどのように働くかだけでなく、海洋の生命の価値についても、市場での商品価値ではなく、私たちを生かすシステムの中での役割によって、理解し始めています。

科学者が徐々に理解してきたこと――すなわち、永遠に安定していると思っていた生命の連なりに、私たちの生活がいかに依存しきっているかを、自身でもついにわかり始めたのです。

これまでのペースで海洋を開拓しつつ、なおも海洋にいつもどおりのサービスの提供を求め ることは、もはや考えられないことです」。

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反対意見を述べるのは難しい。

世界の漁業の3分の1以上 は乱獲であり、さらに半分以上は持続できる限界まできている。

サンゴ礁の40%は過去数十年の間に破壊され、もしくは劣化し、マングローブ林の35%も同様の状況にある。どちらも魚が成長するために不可欠であり、嵐や津波から保護してくれるものである。

汚染によって生物が生きられない“酸欠海域”は400カ所以上に上り、世界中の沿岸水域に出現している。

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気候変動が、一層状況を悪化させている。

海面上昇によって海洋生態系が影響を受ける恐れがあり、沿岸部は浸水の危機にある。

魚類はすでに両極へと移動しつつあり、気温上昇も繁殖活動に影響したり、サンゴの白化現象を引き起こしたりする可能性がある。

そして二酸化炭素の排出は、これまでの3億年になかったほど海洋の酸化を進めていて、貝類や甲殻類はその殻の生成が難しくなり、魚類の呼吸を困難にしている可能性も ある。

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「私たちは海洋に注目し、世界の半分以上が各国の司法権外にあることを認識しなければなりません。健全な海洋管理を達成するために、国際社会の注目と協力が必要となるのです。今のところ、公海のガバナンスは進展しつつありますが、いまだに米国西部の開拓時代のような状況です。いくつかの包括的な法律や政策は存在しますが、各国や産業界はほとんど制約もな く、公海を商業目的で開拓できるのです」と、アール博士は話す。

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少なくとも海洋の20%は特別な保護を必要としている、と彼女は付け加えた。

「海洋の健康と回復力を守り、あまりに多くのものが非常に頼りにしている資源を保護するために、最低限必要なのです。たとえば、厳しい経済措置のないもの、息をするといったことも含まれるのですよ!」。

励みとなるのは、「私たちの経済、健康や安全保障にとって健全な海洋がいかに重要か」といった理解が深まり、この目標は「2020年には到達しないにしても、今世紀中の早い時期には」突破できるだろうと、彼女が信じていることだ。

アールは世界最大の海から希望を見出している。「太平洋諸島諸国は、その“液体の資産”、すなわち排他的経済水域(EEZ) の重要性を理解し、一歩を踏み出しつつあります。2014年初めにパラオは、自国のEEZ内での商業的漁業を終わらせるという、注目すべき公約を行いました」。

「パラオの大統領は、国家のおもな収入源が観光業である国にとっては、生きている魚のほうが、海外にわずかな収入と引き換えに売り払うよりも、よっぽど価値があることに気づいたのです。パラオはすでに、サメ漁を同様の理由で禁止しています」。

「サメは、特にフカヒレという市場がありますが、人々はパラオでサメを見て、一緒に泳ぐほうに魅力を感じています」。

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もうひとつ例を挙げると、

「小島嶼国であるキリバスは、コン サベーション・インターナショナルやその他の機関と協力し、他国に対して自国の海域内での漁業許可を発行して収入を得なくてもすむように、基金の設立に取り組んでおり、保護海域の拡大 を目指しています。同様に、クック諸島の首相は、同国のEEZ(お よそ100万平方キロメートル)の最低でも半分を漁業から保護 すると2年前に宣言しています」。

そして2014年には5つの政府が、豊かな生物多様性を有する中部大西洋海域の広大なサルガッソー海を保全するために 「画期的な公約」を行った。

「海洋生物に特有の安息の場を保護するために、初めて国際同盟が組まれました。これは、国家の司法権の外側にある公海を保全しようという各国の意思を表しています。それらの海域は、乱獲や深海採鉱、その他のやがて制限されるかもしれない抽出作業の影響を受けやすいのです」と、アールは語る。

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2013年の国際海洋保護区会議において、

「IUCNとミッショ ン・ブルーは、世界中の科学者の支援のもと、海洋の健全性にとって重要な特別な海域である“ホープスポット”を発表しました。これらの海域の最新版の地図は、シドニーで開かれる世界国立公園会議で発表されます。もし人々が自分に何ができるの かを知りたいのであれば、自分にとって重要な場所を探して、 ホープスポットを正当化するべきです」。

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アールはこの会議が「より大きな行動を起こす刺激となる」ことを願っていて、「私たちはうまく伝えていますが、この話が数々の結果につながる必要があるのです」とも話した。

「私たちが海洋を保護すべきかどうか迷うという選択肢はありません。海洋が与えてくれる生命維持の機能を守る措置を、どれだけ早く実施できるかが問題なのです」。

 

 

Our Planet 2015 Vol.1(通巻38号)