ケン・リビングストーン
世界で最も大きい都市のひとつであるロンドンで行っている緑の改革プログラムについて、それがどのように市民の支持を広げているかを説明する。
ロンドンは、住むのには素晴らしい
場所です。しかしこの小さな地域に740万もの人々が暮らし、働き、そして移動するので、環境にはとても大きな負担がかかっています。
私はロンドンの住民にこの事実を知ってもらい、持続可能なライフスタイル実現のためにちょっとした変化が必要だが、それは想像以上に簡単だということに気づいてもらいたいのです。
そこで、今年の世界環境デーにあたって、私は初の試みである「ロンドン・グリーンライフスタイル展」を計画しました。
この展示会では、将来のロンドンについて考える機会を提供するため、環境保護に携わってきた人々にさらなるインスピレーションを与える話題の新技術や、興味をそそる新製品を展示しました。
最新流行のライフスタイルに関心を持ち、変化を起こすために自分たちにできることは何なのかと、興味を持っている多くのロンドンっ子が参加してくれました。
ロンドンの環境を保護し、将来を担う世代がイギリスの首都で快適な暮らしを送るためには、ほんの小さな心がけでも意味があります。
見ていない時にはテレビの電源を切ったり、お湯をわかす時にはやかんに必要な量だけ水を入れたり、リサイクルに積極的に貢献することもそうです。
現在、そして将来において、私たちの生活の質を向上させるような持続可能な開発の構想に取り組んでいる人は大勢います。
大切なのは、私たちが生活をもっと持続可能なライフスタイルに近づけるよう努力するべきだということ、そしてそれをすべて自分自身の責任で行うことです。
しかし同時に、私はロンドンの環境改善のために、そしてロンドンを将来の世代にとって魅力的な居住地とするために、大胆な政策を次々と打ち出した市長として、皆に記憶されたいと願っています。
2003年2月、私はロンドン中心部に乗り入れる車両から、渋滞税を徴収するシステムを導入しました。
技術的に不可能だという意見や、交通渋滞と抜け道を懸念する声が悲観的な評論家からあがりましたが、心配は要りませんでした。
渋滞税の導入で交通渋滞は減り、現在もその効果は上がっています。
このシステムが適用された地域では、渋滞が30%減り、排気ガスの12%削減に成功しました。
この制度により、ロンドン中心部は働く場所として、また住居や観光地として、よりクリーンで安全な場所に生まれ変わりました。
目に見える恩恵と、環境が改善される様子を実感するにつれ、住民はこの制度を支持するようになりました。
導入前のこの制度の支持率は39%でしたが、初年度には48%に増え、最近の調査では54%にもなっています。
どの家庭も石炭を使っていたビクトリア時代、通りには煙が充満していました。
当時に比べると、ロンドンの空気は格段にきれいになっています。
ロンドン中心部の煙と二酸化硫黄のレベルは、1960年代の無煙燃料の使用を指定地域で義務づける法令の導入によって、急激に低下しました。
この下降傾向は、広範囲にわたってみられます。
しかし、今でもイギリス全土で最も空気が悪いのはロンドンで、これがもとで毎年1600人ものロンドンっ子が若くして亡くなっています。
これは容認できる事態ではありません。
低排気ゾーン
最も大気を汚染するバスとトラックを大ロンドン(広域市街区)から締め出すため、私は「低排気ゾーン」の導入に力を尽くしています。
ロンドンは、この過激とも言える制度を採用して大気汚染に取り組む唯一の大都市となるのです。
この制度は、ロンドンの大気汚染調査団体が発表した最新の統計を見れば、その正当性がわかります。
これによると、市内の大気中に占める窒素酸化物(NOX)と浮遊粒子状物質(PM10)の濃度は依然として高いため、健康に害を及ぼすというのです。
まず第一段階として、市内を走る2万台のタクシーに厳しい排気ガス規制を実施します。
現在タクシーは、ロンドンの陸上を走る交通機関から排出される浮遊粒子状物質の24%、そして窒素酸化物の12%を占める原因となっているからです。
この新しい基準を満たすための車の改造費用は、2005年4月から初乗り料金を一律20ペンス(約40円)値上げすることでまかないます。
市内のバスには、2005年の12月までに排気から粒子を除去する装置が取り付けられます。
こうすれば、PM10とその他の汚染物質の排出を90%以上削減し、ロンドンのバスはイギリス国内で最もクリーンなものになるでしょう。
こういった対策によって、排気物質は減少し、市民の健康状態は改善するでしょうし、政府の定める首都圏大気環境の目標に向けて、まだまだ道のりは遠いものの、大いに役立つと考えています。
大 ロンドン 評 議 会( Greater London Council=GLC)が1986年に解散し、それ以降は市内の廃棄物管理を戦略的にコントロールしている部署はまったくありません。
そのためロンドンは、廃棄物の取り扱いに関していくつかの課題をかかえています。
いかにして埋め立て条令の規定を満たすか、どうすれば自力で処理できるようになるか、そしてどうやって発生源に密着してゴミ対策を講じるか、といった問題です。
現在、ロンドン市内から出るゴミの3分の2以上は周辺地域に搬出されています。
私は2020年までに、この廃棄物の80%をロンドン市内で処理するという目標を立てました。
もちろん必要な措置なのですが、2016年までに予想される80万人の人口増加と、それとは相容れない土地利用をもくろんでいる都市にとっては、あまりに高い目標と言えます。
ロンドンが目指しているこの自己処理レベルに達するには、リサイクルの普及率を劇的に上げて、再生能力の技術水準を発達させる必要があります。
しかしゴミ処理に関しては、ロンドンの既存の制度がその戦略的アプローチの障害になってしまっているのです。
大きな貢献のために
ロンドンはまた、現在人類が直面している最も大きな問題のひとつである気候変動にも大きく寄与しています。
地球上のひとつの都市として、私たちはこの課題に率先して取り組む必要がありますし、他の国に対して手本とならなくてはなりません。
再生可能なエネルギーを開発するため、気鋭の専門家を招いて、新しくかつ抜本的なプログラムを実行する計画を立てています。
ロンドンのエネルギー効率を上げ、よりたくさんの再生エネルギーを使用するために、新しく設立されたロンドン気候変動対策局(London Climate Change Agency)が支援する予定です。
私たちが目標として掲げた数値は、2016年までに二酸化炭素の排出率を23%削減するというものです。
おもに居住施設と商業施設におけるエネルギー効率の改善に、焦点をあてることになるでしょう。
重要なのは、建物を設計する際に最初から持続可能性を視野に入れておくということです。
そのために私は、設計者や開発者が新技術を採用できるように、ガイドやマニュアルを考案しました。
ロンドンのあちこちに緑地を増やし、もっと空気をきれいにしたいと私は考えています。
実現すれば、それは気候変動に対する積極的な対策にもなります。
今後20年の間に成長するロンドンと増加する人口に備えて、私たちはきちんと準備をしなくてはなりません。
そのためには、持続可能な解決方法がますます早急に求められているのです。
Ken Livingstone : ロンドン市長
出典:Our Planet.2005.Vol.01